インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ほん

繁栄ーー明日を切り拓くための人類10万年史

以前、およそ30年くらい前に取り沙汰された「41歳寿命説」についてブログに書いたことがあります。「21世紀初めには環境汚染の影響で日本人の平均寿命が大幅に下がる」というもので、若い頃の私はけっこうこれに傾倒していたのですが、幸か不幸か(幸ですね…

ゲノム編集と遺伝子組み換え

遺伝子組み換え食品についての基本的な知識を得たいと思って、松永和紀氏の『ゲノム編集食品が変える食の未来』を読みました。 ゲノム編集食品が変える食の未来私はこの件についてまったくの素人で、これまで「ゲノム編集」と「遺伝子組み換え」の違いも分か…

大学を辞めなくてよかった

芸人の小島よしお氏が『しくじり先生』で「大学を辞めなくてよかった」という話をされていました。大学時代にWAGEというお笑いサークルに所属して人気を博し、有頂天になって大学を辞めようとしたものの、親に止められて結局は翻意したというお話です。www.y…

渋谷から書店が消えていく

東京は渋谷の東急百貨店本店7階に入っているMARUZEN&ジュンク堂書店が、百貨店自体の営業終了にともなって閉店するんですよね……。www.maruzenjunkudo.co.jpかつて渋谷にはたくさん本屋さんが、それも豊富な品ぞろえが魅力的な本屋さんがたくさんありました…

フィンランド 虚像の森

以前、フィンランドの森の中をひとりでハイキングしたことがあります。観光客向けに整備された木道や山道を歩くだけの、いたって気楽なハイキングでしたが、人の少なさもあいまって、その圧倒的な森林の魅力を楽しみました。qianchong.hatenablog.com森と湖…

未来の食卓

1985年に公開されたテリー・ギリアム監督の映画『未来世紀ブラジル』に、とっても気持ちの悪い「料理」が登場します。いかにも不味そうな色と形状をしたペースト状のもの。添えられているのは、食材の成分的にはこれと同じですよと言っているような写真です…

フード左翼とフード右翼

もうずいぶん前のことになりますが、かつて勤めていた会社の同僚に「私はフィッシュ・ベジタリアンだ」と公言している人がいました。フィッシュ・ベジタリアン? 要するに「牛や豚などの肉類は食べないものの、魚介類は食べる菜食主義者のこと」です。昨今で…

教育において身体と身体で向き合うこと

トマ・ピケティ氏いうところの「バラモン左翼と商人右翼」に興味を持って、職場の図書館で検索して引っかかってきた何冊かの本を読んでいます。クーリエ・ジャポン編の『不安に克つ思考』もその一冊でした。結果から言えばピケティ氏へのインタビューはほん…

スマホ・デトックスの時代

ブリュノ・パティノ氏の『スマホ・デトックスの時代』を読みました。副題に「『金魚』をすくうデジタル文明論」とあって、これは原題の『金魚文明ーーアテンション市場に関する小論』からつけられているようです。 スマホ・デトックスの時代ここでいう金魚と…

習慣のアンカーを引き上げてみる

行動経済学の入門書として有名なダン・アリエリー氏の『予想どおりに不合理』に、アンカー(錨)によるアンカリング(係留)という話が出てきます。伝統的な経済学では、製品の価格は需要と供給で決まり、かつその力はお互いに独立していると考えますが、実…

ホテル・メッツァペウラへようこそ

存じ上げない作家さんでした。Amazonで検索していて偶然見つけたマンガ『ホテル・メッツァペウラへようこそ』。メッツァ(metsä)がフィンランド語で「森」なので、これはフィンランドが舞台なのかなと興味を持ったわけですが、果たしてフィンランド北部のラ…

ソーシャルメディア解体新書

いやもう、ソーシャルメディア*1の、ある意味「正体」を見た思いがしました。とくにSNSやネット上のクチコミにもうずいぶん前から抱いていた違和感のようなもの、その原因や正体はここにあったのかと。副題にもあるようにこの本は、フェイクニュース・ネット…

揚げ豚

「さもない(然もない)」という言葉を久しぶりに見かけたような気がしました。立ち寄った書店で偶然に有元葉子氏の『有元家のさもないおかず』を見つけ、購入したときのことです。そうそう、日常の炊事で作る料理って、こういう「さもない」ものばかりなん…

「コチコチのマインドセット」と「しなやかなマインドセット」

同僚に教えてもらったのですが、雑誌『日本語学』の2022年3月号に「マインドセットと4チャンネルモデル」という論考が掲載されていました(筆者は藤森裕治氏)。その中に出てきた、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック氏らによる人間のマインドセッ…

カバーは備品なので回収します

先日帰宅途中に電車を乗り換える際、駅のコンコースにある書店でよしながふみ氏の『きのう何食べた?』第20巻を買い求めました。書籍はだいたいAmazonで買ってしまう私ですが、街の本屋さんがなくなってしまうのはかなりマズイのではないかと思っていて、応…

ヘルシンキ 生活の練習

かつてTwitterを利用していたころ、偶然目にしたタイムラインのツイートにやや気持ちが淀んでしまったことがありました。それはフィンランド在住の日本人と思しき方々数名による、他のツイートへの批判ツイートでした。「幸福度が高い」とされる北欧諸国、な…

やっぱり中庸がいちばんなんじゃないかと

いまの職場にはいろいろな国からやってきた留学生がいて、今年度はおよそ20カ国の学生さんたちと毎日相対しています。私は以前に日本人(日本語母語話者)だけのクラスを受け持っていたこともあるのですが、当然のことながらクラスの雰囲気はかなり異なりま…

ひらやすみ4.

真造圭伍氏のマンガ『ひらやすみ』第4巻を読みました。やー、今回もよかった。二十代からアラサーの登場人物たちが、それぞれに思い悩みながらも日々の暮らしを紡いでいく物語。読んでいると、もう何十年も前の自分の二十代三十代が蘇ってくるような気がし…

簡単料理は簡単か?

料理研究家の有元葉子氏が「簡単な料理を教えてください」という依頼に端を発して、料理とはなにか、料理を含む暮らしとはなにか、とりわけ気持ちよく暮らすとはどういうことかを語った本。料理のヒントや簡単なレシピも載っていますが、これは料理本という…

もう別れてもいいですか

「この本、おもしろいから読んでみて」と妻からおすすめされた、垣谷美雨氏の『もう別れてもいいですか』を読みました。われわれと同年代の主人公・澄子が「早く逝ってほしい」と願い、ほんの少し身体が触れただけでも鳥肌が立つほど嫌悪している夫と「熟年…

共話と会話どろぼう

ドミニク・チェン氏の『未来をつくる言葉』を読んでいたら、「共話と対話」と題された一節にこんな興味ぶかい文章がありました。 共話とは、次の例のように、話者同士が互いのフレーズの完成を助けながら進める会話形式を指す。 A:「今日の天気さぁ」 B:「…

いつかは死ぬからこそいま何かをやろうと思う

ヴィクトール・エミール・フランクル氏*1の『それでも人生にイエスと言う』を読んでいたら、こんな一節がありました。 私たちが不死の存在だったら、私たちはなんでもできただろう、しかしまたきっとなにもかもあとまわしにすることもできただろう(中略)死…

ヒット曲のリズムの秘密

いつもYouTubeで音楽解説の動画を楽しませていただいているドクター・キャピタル氏が本を出されたというので、早速読みました。『ヒット曲のリズムの秘密』です。ドクター・キャピタル氏が音楽、とりわけJ-POPの楽しみ方をリズムに焦点を当てて解説する一冊。…

英国一家、日本を食べる

数年前、ヘルシンキで寿司を食べたことがあります。寿司店に行って食べたのではなく、民泊で借りていた家の近くにテイクアウトの寿司店があったので買ってみたのです。 海外における寿司人気はもうずいぶん前から伝えられていますが、同時に寿司の「現地化」…

ボマーマフィアと東京大空襲

戦争における爆撃、とくに航空機から行われる空爆といえば、私たちは写真や映像などでこんなビジュアルを想起します。 https://www.ac-illust.com/main/search_result.php?word=%E7%A9%BA%E7%88%86これだと、まるでひとつひとつの爆弾が垂直に落下しているよ…

スターシステム

よしながふみ氏のマンガに出てくる人物で、異なる作品なのに同じような外見と性格のキャラクターがいます。『西洋骨董洋菓子店』のエイジと『フラワー・オブ・ライフ』の春太郎と『きのう何食べた?』のタブチです。先日読んでブログに感想を書いたロングイ…

能とAR・VR

雑誌『現代思想』9月号の巻頭に、情報学研究者のドミニク・チェン氏と能楽師の安田登氏による対談が掲載されていて、その中に興味深い一節がありました。 チェン 例えば『羽衣』の冒頭に「虚空に花降り、音楽聞え……」という一節があって、そこでcluster*1内に…

素数のシューズボックス

小島寛之氏の『世界は素数でできている』を読み始めたら、冒頭にこんな記述がありました。 世界は素数でできている かく言う筆者も素数マニア。筆者は今年59歳、6年ぶりの素数の年齢だ、などとほくそえみます。温泉などに行くと、下駄箱やロッカーは必ず素…

仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ

出先の駅前でふらっと入った書店の棚に見つけて欣喜雀躍、すぐに買い求めました。マンガ家・よしながふみ氏へのロングインタビューを収めた『仕事でも、仕事じゃなくても』です。 仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみはじめて氏の作品を読んだの…

限りなく完璧に近い人々

デンマークのコペンハーゲンで、「スモーブロー」と呼ばれる伝統的なオープンサンドイッチのお店に行ったときのこと。たくさんあるオープンサンドの種類に恐れをなして、店員さんに「この店のおすすめはどれですか」と聞いたら、ちょっと困ったような顔で「…