インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

通訳・翻訳

いつかたこぶねになる日 漢詩の手帖

私は詩というものが分かりません。いや、唐詩や宋詞にも、俳句や短歌にも、また明治期以降の新体詩にも「いいなあ」と思うものがたくさんあって惹かれ、中には諳んじているものだってあるけれども、自分で紡ぎ出すことができないのです。詩心というものに乏…

翻訳の授業 東京大学最終講義

「翻訳の正しさは原文とは無関係で、百パーセント現実との照合で決まる」と筆者の山本史郎氏は主張します。つまり原文と訳文の間の語彙や文法などよりも、その二つの文が現出させる世界がぴったりと一致していることが何より大切なことなのだと。 翻訳の授業…

大きな声で訳してください

「もっと大きな声で訳してください」。教室で、このフレーズを何度言ったか分かりません。たぶん千回は超えているんじゃないかしら。いえ、これは誇張でも何でもなくて。通訳訓練で、生徒さんの声があまりにも小さくて、すぐそばにいるのに聞こえにくいこと…

語学で身を立てる

語学関係者ならページをめくるたびにいちいち頷き、付箋を貼りまくり、「そうそう! この本に書かれていることは、この業界ではごくごく当たり前のことばかりなのに、一般に広く知られていないのはなぜだろう?」としみじみ思うはずです。通訳者や翻訳者がや…

留学生から出された質問に対して

先日、通訳訓練の一環で外国人留学生のみなさんに私がいままでしてきた仕事を話すという機会がありました。留学生のみなさんは日本で、あるいは母国や第三国での就職を目指している方が多いので、参考になるかもしれないと周囲には言われたのですが、私自身…

話すことと訳すこと

華人留学生の通訳クラスで、中国語→日本語の訳出があまりにもたどたどしい方が多いので、しばらく「1分間スピーチ」を課題にしていました。学生は日本語をもう何年も学び続けている方ばかりですけれど、やはりアウトプットの機会、それも日常のおしゃべりレ…

立場を変えてみてクライアントの気持ちが少しだけ分かった

通訳者として仕事に望むとき、よくクライアント(お客様)、あるいはクライアントのスピーカー(話し手)の姿勢にいろいろ難儀していました。通訳という作業は事前の予習が不可欠であるにも関わらず、その予習をなかなかさせてもらえないというのが難儀して…

「やっつけ仕事」の字幕を前にして

「WeTV」の動画に日本語字幕がつくようになったーー。先日、Twitterでそんな情報に接しました。すごい…ついに腾讯视频の国際版「WeTV」に日本語字幕が付く日が来たよ...最近放送スタートした中国ドラマをこんなに早く字幕付きで観れるなんて感動しかない……ま…

出版翻訳者なんてなるんじゃなかった日記

宮崎伸治氏の『出版翻訳者なんてなるんじゃなかった日記』を読みました。新聞広告で見つけて、これはきっと私たちに向けて書かれた本に違いないと思ってすぐに購入し、面白くて一気に読了。面白いけれど、こんなに怖くて気分の悪くなる本も久しぶりでした。 …

語学におけるネットの中毒性

外語の作文をするときに、インターネットを利用することがあります。自分の書いた文やフレーズが実際に使われているか、ダブルクォーテーションマーク(“”)つきで検索(完全一致検索)して確かめるのです。ネットを巨大な「コーパス」として利用するという…

フランス語っぽい日々

じゃんぽ〜る西氏とカリン西村氏の『フランス語っぽい日々』を読みました。月刊誌『ふらんす』に連載されていたマンガとコラムを一冊にまとめたものです。私はじゃんぽ〜る西氏のマンガのファンで、氏の作品はほとんど読んできました。『パリが呼んでいる』…

留学生の通訳訓練(日本語方向編)

留学生の通訳クラスで、外部から講師をお招きして講演会を開き、その内容を訳すという通訳実習を行いました。この学校の通訳クラスには英語クラス(日英・英日)と中国語クラス(日中・中日)があります。学生さんの中には母国ですでに日本語を学んでいた人…

簡体字と繁体字の併記について

昨日Twitterで、こんな意見に遭遇しました。もう、漢字が読めるのは日本人と台湾人だけですからね。我々は、ホンモノの漢字を知ったうえで、中共の簡体文字を漢字の省略形と認識してますが、中国人は簡体文字を漢字と思い込まされており、学者や一部の高学歴…

再び言語リテラシー教育(のようなもの)の必要性について

通訳の仕事をしていると、時々とても奇妙な「言語観」を披露してくださるクライアント(お客様)に遭遇することがあります。そうした方々は、通訳業務の前に決まってこんなことをおっしゃいます。「言った通りに訳してくれればいいから」。つまり通訳(や翻…

ヒトの言葉 機械の言葉

川添愛氏の『ヒトの言葉 機械の言葉』を読みました。機械が人間の言葉を理解することについての基礎的な知識を紹介する内容で、母語の習得や外語学習についても多くの示唆が得られる一冊です。 ヒトの言葉 機械の言葉 「人工知能と話す」以前の言語学 (角川…

留学生の「インタープリターズ・ハイ」

先日、勤めている学校のひとつで留学生クラスの通訳実習を行いました。外部から様々なご専門の講師をお招きして講演を行っていただき、それを通訳するというものです。単に講演当日に通訳するだけではなく、「自分が実際にこの仕事をうけたらどんな準備をす…

通訳報酬の「時給化」について

通訳者として登録しているエージェントさんから、アンケートへの回答を求められました。エージェントとは、通訳者の派遣や通訳者を使った業務のコーディネートなどを行っている会社です。アンケートの内容は、コロナ禍で通訳者の業務環境が大きく変わりつつ…

日本になんて来たくなかった?

何年か前、とある企業の幹部職員候補者向けセミナーに通訳者として伺ったことがありました。この企業は本社が日本にあり、中国を含む世界各地で大規模に事業を展開しています。そのセミナーは、中国各地の中堅職員を日本に呼んで、本社の企業理念や経営方針…

外語学習で恥やプライドを捨てる勇気について

明治から昭和にかけジャーナリストとして、また随筆家や俳人などとしても活躍した杉村楚人冠(すぎむら・そじんかん)という人がいて、『外國語と芝居氣』という文章を書いています*1。いくつか文章を抜き出してみます。 年を取ると外國語を使ふのが馬鹿にお…

日本語を話したがらない華人留学生のみなさんへ

外語を学ぶと、その言語で話したくなります。外語を学ぶ目的は人によって様々で、中には書籍や文献を読むことができればいい、聞いたり話したりは必要ない、という方もいるかもしれません。でも私は読んだり書いたりはもちろん、やっぱり聞いたり話したりも…

翻訳における「キャラ立ち」

先日の東京新聞で、師岡カリーマ氏が「翻訳の職業差別」というコラムを書かれていました。外語を日本語に訳す際に、男尊女卑が透けて見える「無意識の印象操作」が行われているという批判です。またスポーツ選手など特定の職業の人々の発言を訳す際にも、な…

日本語のアウトプットに消極的なのはなぜ?

私が勤めている学校のひとつは、学生が全員外国人留学生です。母語は中国語、英語、タイ語、スペイン語、ベトナム語、イタリア語、ミャンマー語、スウェーデン語、ロシア語……と実にさまざま。ビジネスレベルの日本語習得を目指すと同時に、通訳や翻訳の訓練…

オンライン授業に欠けている身体性

一ヶ月に二回だけ担当している通訳学校の授業、この春学期は新型コロナウイルス感染症の影響ですべてZoomを使ったオンライン授業になっています。オンラインの遠隔授業ですから講師の私も自宅から参加すればいいのですが、Zoomのアカウントの問題や、Zoomに…

「リモート通訳」の時代

はやいもので今年もすでに半年を過ぎ、あまり夏らしい天候にならないまま八月を迎えようとしています。年明けからここまで、なんだかコロナ禍に振り回されっぱなしだったような気がしますが、気がついたら今年は、一度も通訳業務をしていませんでした。もと…

「なるべくラクな道」を選ぼうとする学生さんたち

英語や中国語の動画に、日本語の字幕をつけるという翻訳の授業をやっています。業界標準の字幕翻訳用ソフトを使い(ただしお高いので、出力に制限があるアカデミック版)、ハコ割りからスポッティング、文字数制限、記号の使い方、役割語の処理……にいたるま…

10年後に食える仕事 食えない仕事

先日、住んでいる区の区役所から「特別区民税・都民税通知書」という分厚い封筒が届きました。毎年のことですけど、紙の納付書が五枚も同封されています。一括納付専用の一枚と、分割納付用(6月・8月・10月・翌年1月)の四枚。私は毎年一括して納付して…

ウェブ会議アプリでの話し方

通訳学校に通っていた頃、ダブルスクールでアナウンス学校にも通っていた時期がありました。通訳者は人前で話す職業なのだから、話すことそのものの訓練も必要ですよと先生に言われて。もちろんリスニング能力が高いとか、ボキャブラリーが豊富だとか、訳出…

オンライン授業をどうする?

YouTubeで拝見したこちらの動画、非常に興味深い内容でした。今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックに際して*1、日本語学校がネットを使ってできることは何か、これまでにもあった様々なビジネスチャンスを日本語教育業界は見逃してきたんじゃないか…

自然言語処理にいたるまでの壮大な物語

四月に入り、職場への通勤が復活しました。……が、新学期の開始はゴールデンウイーク後まで延期されたため、教員の自宅勤務は継続ということに。でも私は「小人閑居して不善を為す」を地で行くような人間なので、自宅にいると仕事が全くはかどりません。とい…

語学と辞書について

昨日は奉職している学校で教員のミーティングが開かれました。新年度を控えて、授業のスケジュールやカリキュラム、シラバスなどを確認する会議です。その場所で、ある日本語の先生からとても興味深いお話を聞きました。いわく「留学生が、ネットの辞書で調…