インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

通訳・翻訳

教室の風景もさまがわり

きょうは本務校とは別の通訳学校に出講してきました。この学校にはもう十五年以上お世話になっています。私のように元からして三流で、しかも現在では第一線を退いて細々と通訳や翻訳に関わっているだけの人間が講師というのもかなりおこがましいのですが、…

中国語の日本人化

中国語母語話者の中日通訳クラスで、中国・台湾・香港の留学生と訓練をしていると、ときどきおもしろい現象に出くわします。「中国語の日本人化」もそのひとつです。中国語の日本人化というのは、私が勝手にそう呼んでいるだけですが、要するに母語(あるい…

第三者返答

約一ヶ月前の新聞に、伊是名夏子氏が「第三者返答」について書かれており、今朝は同じ新聞の投稿欄にこの言葉を初めて知りましたという読者の方の声が寄せられていました。「第三者返答(第三者話法)」とは、こちらの論文によれば「話し手が、話しかけてき…

そのうち誰も来てくれなくなっちゃう

昨日の日経新聞に『留学生 進む日本企業離れ』という記事が載っていました。来日中の外国人留学生のなかで、日系企業への就職を志望する人の割合が外資系企業志望を初めて下回ったというもの。その背景としては高度な日本語能力を求める日系企業の姿勢に加え…

アグネス吉井

中国語の通訳教材を探してYouTubeの動画チャンネル《一席 YiXi》を見ていたら、日本人のコンテンポラリーダンスユニット「アグネス吉井(Aguyoshi)」のお二人が登壇されていました(映像での登壇という形式だったそうです)。www.youtube.comユニット名は「…

留学生による字幕翻訳上映会

毎年恒例の、留学生による字幕翻訳上映会を行いました。夏休み前の数カ月間、翻訳クラスの授業で取り組んでいた作品を、他の学年の学生や教職員とともに鑑賞して、最後に投票で「最優秀字幕賞」を決めるというイベントです。留学生は様々な言語の母語話者で…

「日簡翻訳」とは?

某エージェントから技術文書翻訳のオファーがメールで届きました。このエージェントは登録している通訳者や翻訳者に一斉メールでオファーを出し、応募した人の中から仕事を割り振ると決めた人にしか返事を出さないーーつまりそれ以外の人は仕事の当日になる…

このテーブルで飲食ができます

先日、六本木にある国立新美術館へ行って、一階にあるセルフサービスのカフェテリアでサンドイッチとコーヒーを買いました。窓際にあるテーブルまで持っていって座ったら、そのテーブルにこんな表示がありました。「このテーブルで飲食ができます」。一瞬ど…

コロナ禍が収まったらハイブリッド型授業になるかも

先日、メインの仕事と兼任で受け持っている通訳学校で、春学期末の個人面談を何名かの生徒さんと行いました。この学校ではコロナ禍に突入して移行ずっとオンラインでの授業が行われており、この面談ももちろんオンラインです。二年半ほどの経験を踏まえて、…

親切すぎてかえって分からない

今週職場では留学生が「東京国立博物館」に行って見学するというイベントが控えておりまして、この週末は下見に行って参りました。うちの学校は同博物館の「キャンパスメンバーズ」制度に参加しているので、総合文化展(常設展)は無料で見学することができ…

てんで聞いちゃいない

留学生の翻訳クラスで、字幕翻訳の授業が始まりました。毎年この時期から数ヶ月かけてそれぞれの字幕作品を作るという課題で、ひとりひとりに字幕制作ソフトの「Babel」を貸与して授業を進めます。最初に字幕翻訳のガイダンスをしました。日本の「業界」にお…

代々木公園と明治神宮

留学生の通訳クラスで、観光ガイド通訳の実習を行いました。毎年東京都庁や東京都議会の見学を兼ねて実習をしていたのですが、あまり見るところがなくておもしろくない(失礼!)のと、コロナ禍で見学できないエリアが多いのとで、今年は代々木公園と明治神…

“尹錫悦”氏の名前の読み方について

新学期を迎えて、担当している留学生の通訳クラスの教材を準備しています。留学生のみなさんはこれまで日本語の上達に専念してきた方がほとんどなので、日本語から中国語へ、あるいは中国語から日本語へ「訳す」ということに慣れていないという場合も多い………

現代経済学の直観的方法

先日、某所で、中国語と日本語の単語に関する授業を担当しました。その中で日本語に多く見られる一連の外来語(カタカナ語)を取り上げました。特に中国語母語話者のみなさんにとって、この節操がないと言ってもいいほど頻出するカタカナ語は「鬼門」のひと…

教えようとしても教えられない

ずっと以前に古本屋さんで購入した、十四世喜多六平太氏の聞き書きをまとめた『六平太芸談』を読んでいたら、こんなひと言がありました。 教えようたって教えられない、習おうたって習えないところに値打ちがあるのさ。学者ぶりは芸には禁物だよ。 斯界の泰…

NHKのロシア語番組が終了というニュースに接して

『デイリー新潮』に、「NHK『ロシア語番組』終了の波紋」という記事が載っていました。Eテレのロシア語講座「ロシアゴスキー」が今月で終了するのはウクライナ侵攻の影響かとの憶測を打ち消す一方で、日本におけるロシア語教育の危機を訴える研究者の声を紹…

スライド資料を「引き算」する

今週末、都内某所でセミナーのようなものの講師を仰せつかっておりまして、昨日はせっせと当日使用するPowerPointのスライド資料を作っていました。……が、私はいつも、このスライド資料を作りすぎてしまいます。これは定期的に行われているセミナーで、毎回…

もうあきらめるしかないのかも

留学の目的ってなんでしょう? それはもちろん人それぞれでしょうけど、目的のうちでも大きなひとつは語学の習得だと思います。自国で母語話者に囲まれている環境から、外語の海に飛び込んで自分をその外語漬けにする。否が応でもその外語をインプットし、自…

ウクライナ侵攻で“碳中和”は早まる?

通訳学校は学期末ということで、外部から専門家の講師をお招きして通訳実習を行いました。今回は日本企業でエネルギー関係の新素材開発に携わっておられる中国人の専門家にご講演をお願いし、逐次通訳と同時通訳のクラスがそれぞれ日本語に訳すという実習で…

超ハイテンションな通訳者

通訳教材のネタを探してYouTubeをさまよっていたら、おもしろい動画を見つけました。ハイテンションかつ暑苦しいピン芸が特徴の、サンシャイン池崎氏の「通訳」をネタにした動画です。www.youtube.comwww.youtube.com俳優のカイル・カード氏が通訳者役で後ろ…

中国の英語不要論

『wisdom』に掲載されていた田中信彦氏のこちらの記事、とても興味深く読みました。中国で「英語不要論」への共感が高まりつつある、というお話です。wisdom.nec.com田中氏は、こうした英語不要論の背景にあるものを分かりやすく五つに分類して解説されてい…

DeepL公式Chrome拡張

AI翻訳ツール「DeepL」の公式Chrome拡張機能(β版)がリリースされたというニュースに接して、さっそく自分のパソコンでも試してみました。www.itmedia.co.jpChrome上にはすでに「Google翻訳」の拡張機能もあるので、自分の中国語作文を「DeepL」と「Google…

学生のプレゼンをその場で訳す

留学生の通訳クラスで、今年度後半の授業開始時にこんな動画を使ってみました。オーストラリア在住の華人が、ご自身の好きな推理小説をお勧めするというYouTube動画です。youtu.be東野圭吾氏など日本の推理小説作家の話が出てきて、学生も楽しんで訓練してい…

村上春樹氏の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』をめぐる「10年で変わったこと・変わらなかったこと」

加藤典洋氏の評論集『村上春樹の世界』を読んだので、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を再読しました。確かこの前読んだのは東日本大震災の年だったと覚えているので、ちょうど10年ぶりで読み返したことになります。この小説を最初に読んだ…

語学に必要な「素直さ」について

声優の専門学校に通ったのち、声優になれる人は100人のうち5人ーー。はてなダイアリーの「今週のはてなブログランキング(2021年10月第3週)」で、はてな匿名ダイアリーのランキングにそんな記事が載っていました。anond.hatelabo.jp声優さんを「声を届け…

留学生の字幕翻訳課題

外国人留学生の通訳翻訳クラスで、毎年この時期の課題となっている字幕翻訳に取り組みました。プロも使っている字幕製作ソフトを用い、日本の字幕翻訳のルールも学んだ上で、英語や中国語の動画に日本語字幕をつけるという課題です。翻訳は、それも高度な言…

「ろう通訳」の生放送

この夏は東京オリパラが「強行」されましたが、私はまったく興味がなく、多額の税金をはじめとした社会のリソースを、コロナ禍への対応後回しでつぎ込むオリパラ自体に反対でしたので、それこそ一瞬たりとも見るものか! ……と、ちょっと変な意気込みでひと月…

ネイティブのようにはなれないけれど

私は中国語が流暢ではありません。発音が死活的に重要な言語であるのに、その発音もあまり美しいとはいえません。話すことはできますし、仕事でも使っていますが、「ネイティブ」と呼ばれる母語話者からすれば、すぐに「ああ、どこか外国の人ですね」と分か…

画面を共有すると一発で伝わる

はてなブログで、興味深い記事を読みました。英語が苦手とおっしゃる筆者氏が、英語ばかりの環境の職場に入って駆使してきた「バッドノウハウ」を紹介するという記事です。バッドノウハウとは筆者氏によると「本質的には生産性はないものの、問題解決のため…

音感のよしあしと語学の向き不向き

昨日「音感が悪いと良い翻訳はできない」という作家・村上春樹氏のインタビューをご紹介したんですけど、私はこれ、語学全般についても言えるんじゃないかなと思いました。村上氏は「別に声に出さなくても、目で読みながら耳で聴く」とおっしゃっています。…