ありふれた家電やおもちゃを一流の技術者やエンジニアたちが寄ってたかって改造し、「えげつない」ほどのパワーを発揮するマシンに仕立てた上で三つ巴の戦いを行うという企画。ロボコンに似ていますけど、こちらは学生さんのみならず、世界的な大企業から町工場まで様々なジャンルのプロも参戦しているのが特徴です。
マシンを競わせる場を「夜会」と呼び、その夜会を主催する悪魔は覆面で決して人前に登場しないというのも、また夜会の会場が海岸の工業地帯にあると思しき巨大な廃倉庫であるというのも、なんだか昔懐かしいアングラ演劇めいています。しかも「魔改造」のお題がまたえげつなくて、一流のプロが挑んでいるにも関わらず、本番で思わぬアクシデントが続発します。その思わず「魔が潜んでいる」としか言いようのない意外性や緊張感が面白くて、毎回欠かさず見ています(NHKオンデマンドでも過去の対戦が見られます)。
魔改造の夜は、改造されたマシンのパフォーマンスも面白いのですが、それ以上に無理難題に挑む技術者やエンジニアや学生さんたちの奮闘ぶり、挫折と栄光、そのドラマがより感動的です。ちょっと間違うと安っぽいスポ根物語に陥りそうな危うさはあるのですが、いい大人たちが超おおマジメに一見「生産性ゼロ・資源の無駄遣い」のような課題に取り組むところが感動を呼ぶのです。
私はいま生産性ゼロ・資源の無駄遣いと書きましたが、番組を見ていただければわかるように、そうした無茶なチャレンジがものづくりに携わる方々のマインドを鍛え、豊かにしていることが伝わってきます。ここからは技術の継承に伴う世代交代や、チームワークの難しさ、自らの殻を壊す勇気など様々な教訓を引き出すことができそうです。
話はガラッと変わりますが、いま私は職場で毎年文化祭の時期に上演している留学生による「日本語劇」の指導をしています。明後日から二日間の公演を予定していて、昨日は教室を改造して小さな劇場に仕立てました。予算も微々たるもので本当にチープな仕上がりなのですが、できあがってみて「あれ、これは魔改造の夜に出てくる夜会の会場にそっくり!」だと思いました。
この「日本語劇」は、日本語や通訳・翻訳の技術を学んでいる外国人留学生クラスのカリキュラムの一環として、パブリックスピーキングや、より自然で気持ちのこもった日本語表現を学ぶための授業として設定されています。ですから単なる文化祭の「出し物」的に騒いでおしまい、という位置づけにはせず、容赦のない日本語のセリフを留学生に課し、留学生はその肉体化された圧倒的な日本語の力で観客を引きつけることを狙っています。
……というのは理想で、実際には留学生諸君のモチベーションもさまざま。なかには課題として渋々参加しているように見える人もいますし、なかなかチームワークに馴染めない人、自分の殻をどうしても破ることができない人もいます。「魔改造の夜」では、参加者全員が自ら志望して参戦し、かつ溢れんばかりのモチベーションを持っているがゆえに、その結果もある種の感動を生むのだと思いますが、こちらはやはりそこまでの理想的な展開にはなりにくい。
それでも私は、留学生のみなさんの底力に期待したいと思っています。今日と明日のリハーサルで、もう一歩新たな領域に踏み込んでくれることを信じています。ともあれ、本番は11月2日(木)と3日(文化の日)です。ご高覧たまわることができれば幸いです。