インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ほん

いつかたこぶねになる日 漢詩の手帖

私は詩というものが分かりません。いや、唐詩や宋詞にも、俳句や短歌にも、また明治期以降の新体詩にも「いいなあ」と思うものがたくさんあって惹かれ、中には諳んじているものだってあるけれども、自分で紡ぎ出すことができないのです。詩心というものに乏…

你好小朋友 中国の子供達

ネットでたまたま見つけた動画を留学生の通訳訓練に使ってみました。1983年に出版された写真集『你好小朋友 中国の子供達』の写真家・秋山亮二氏の動画です。youtu.be一目見て、いいなあと思いました。子供たちの表情がとてもいい。この写真集は長らく絶版だ…

じい散歩

最近、東京都心をできるだけ歩くようにしています。男性版更年期障害とでも言うべき不定愁訴は週に三回ほどのジムの筋トレでかなり解消されたのですが、有酸素運動が足りません。といってジムのドレッドマシンで三十分も四十分も走り続けるのはあまり面白く…

旅の効用 人はなぜ移動するのか

昨年ベストセラーになった、ハンス・ロスリング氏の『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』に、「世界はどんどん悪くなっている」と考えてしまう「ネガティブ本能」について書かれた一章がありました。ネガティブなニュースは耳目を集めやすいためどんどん伝わ…

翻訳の授業 東京大学最終講義

「翻訳の正しさは原文とは無関係で、百パーセント現実との照合で決まる」と筆者の山本史郎氏は主張します。つまり原文と訳文の間の語彙や文法などよりも、その二つの文が現出させる世界がぴったりと一致していることが何より大切なことなのだと。 翻訳の授業…

遺言未満、

紙の新聞って、すっかりお年寄り向けのメディアになっちゃいました。いつも職場の図書館で新聞各紙を読んでいるのですが、まずそこに載っている広告の、ほとんどが中高年やお年寄り向けだなあと思います。そして気がついてみれば基本的な事実を述べる記事(…

さよなら、男社会

読みながら、ずっともどかしい気分に囚われていました。ときにそれは軽い「吐き気」を催すような居心地の悪さでもありました。尹雄大氏の『さよなら、男社会』の読書感です。もどかしい気分になるのは、自分の中ににも確実にある「男性性」の正体がなかなか…

語学で身を立てる

語学関係者ならページをめくるたびにいちいち頷き、付箋を貼りまくり、「そうそう! この本に書かれていることは、この業界ではごくごく当たり前のことばかりなのに、一般に広く知られていないのはなぜだろう?」としみじみ思うはずです。通訳者や翻訳者がや…

ウイルスの世紀

新型コロナウイルスに対するワクチンの接種、日本は非常に遅れているという報道に接しました。news.yahoo.co.jpいつの間にか、「日本は医療や医薬に関して世界でも最先端の体制を整えている」という自負のようなものが私たちにはあったと思うのですが、それ…

自分の作文を暗誦する

トロイア遺跡の発掘で有名なシュリーマンは「語学の天才」としても名高く、試みにネットで「シュリーマン 語学」とでも検索してみると、十種類の言語をマスターしたとか、十八種類だとか、いや二十二種類だとかの様々な説が見つかります。自著『古代への情熱…

きらめく共和国

むせかえるほど濃密で圧倒的な存在感を誇る緑のジャングルに囲まれ、茶色い泥水が滔々と流れる巨大な川に面した架空の街、サンクリストバル。その街に出没する子供たちの集団は、理解不能の言語を話し、スーパーを襲撃し、街の人々を混乱に陥れた上、突然全…

無邪気な冷笑

昨日はバイデン米大統領の就任式ライブをちょこっとだけ見て、そのあとレベッカ・ソルニット氏の『それを、真の名で呼ぶならば』をパラパラと読み返していました。以前も書きましたが、この本に収められた「無邪気な冷笑家たち」が改めて心にしみます。専門…

増田みず子氏の『小説』

読み始めたら止まらなくなり、一気に読み終えました。読みながら何度も驚き、ちょっと怖くなりさえしました。まるで自分のことが書かれているようだったのです。著者の増田みず子氏は私よりも一まわりから二まわりも年上の女性で、これまでの経歴も環境も違…

自分で考えること・自分の考えを持つこと

もうひとつ、渡辺恭二氏の発言集『幻のえにし』で、社会や政治の問題について述べているインタビューが心に残りました。渡辺氏は数年前に出た『さらば、政治よ: 旅の仲間へ』でも個人が政治にどう関わるかについてかなりシニカルなスタンスで語られていまし…

モノは人間を豊かにしてくれる

渡辺京二氏の発言集『幻のえにし』を読んでいたら「モノは人間を豊かにしてくれる」というお話がありました。 モノというのは、よく清貧とかなんとか言うけれど、人間にとって、自分が来ているシャツが気に入っているとか、着てて気持ちがいいとかは、実はと…

SNS以外の文字を読む

Twitterを使い続けて十年あまり。時に放置したり、時に依存症気味になったりの濃淡はありましたが、毎日のように利用してきました。それでも最近は情報を入手するのが主で、自分からつぶやくことはかなり少なくなりました。こうやってブログに文章を書いてア…

自壊する帝国

マルクス経済学のとある研究者が、夏休みに数週間ほど離島でバカンスを過ごしていたら、その間にソ連が崩壊してしまっていた――。若い頃、知人に聞かされた笑い話です。スマホでインターネットに常時接続してニュースに接するなんて、まだ誰も想像すらしなか…

推しに萌えて尊いと思う

日本の文化は、わび・さび・萌え。落語家・柳家喬太郎氏のネタです。ところが最近はこの「萌え」がすでにして古い言葉になり、いまは「推し」であるよし。なるほど、確かに「萌え」をあまり聞かなくなった一方で「推し」はよく聞きますし、目にしますね。私…

英語独習法

こんな泥臭くて面倒な「語学」という営みに、全国民が小学校からなかば追い立てられるように狂奔していていいのだろうかーー。語学業界にいながら、私はそんな疑問が常に頭を離れません。ですから、この本を読み始めてすぐにこんな記述があり、おもわず「そ…

三行で撃つ

だれもが文章を書きたがっています。試みにAmazonで「文章術」をキーワードに検索してみると、驚くほど多くの書籍がヒットします。それも刊行日がごく最近のものがたくさん。これは個人のSNSアカウントやブログがネットにあふれている現代、文章を書きたい、…

このあたりで「成仏」しなきゃ

50代になったら「成仏」しなさい、と言われました。大江英樹氏の『定年前、しなくていい5つのこと』という本を読んでいたときのことです。いつまでも会社人生にこだわらないで、新しい人生に向かいなさいという意味だそうです。 定年前、しなくていい5つの…

写真を撮ると記憶に残らない

脳はどうやらとてつもないリアリスト(現実主義者)のようです。先日読んだアンデシュ・ハンセン氏の『スマホ脳』には「脳は情報そのものよりも、その情報がどこにあるのかを優先して記憶する」という話が載っていました。 ある実験では、被験者のグループに…

玉電松原物語

東急世田谷線に「世田谷」という駅があります。無人駅で、ふだんは降りる人もそれほど多くないのですが、年末年始に開かれる「ボロ市」の時だけは異様に混み合います。でもそのボロ市も今年はコロナ禍のため中止になってしまいました。私は自宅の最寄駅がこ…

スマホ脳

教室で、若い学生さんたちを見ていると、いろいろなことに気づきます。学生さん(私の場合は外国人留学生)は全員スマホを持っているのですが、授業中にスマホを使い倒しています。私が担当しているのは通訳や翻訳や語学の授業で、その際には辞書を引いたり…

手の倫理

伊藤亜紗氏の『手の倫理』を読みました。人間の五感のうち、最も近距離かつ直接的に行われる「触覚」、とりわけ手によって行われる「さわる」と「ふれる」についての考察をベースに、人間関係の新たな可能性を模索する一冊です。 手の倫理 (講談社選書メチエ…

「自己啓発本」は身につかない

今年の年末年始はコロナ禍で帰省できず、もちろん旅行にも行けず、かといって近場ですら人混みの中にはあまり行く気がしないので、自宅にこもって積ん読してある本を片っ端から読もうと思っています。それから古本屋さんに買い取ってもらう本の選別と箱詰め…

妻が口をきいてくれません

野原広子氏の『妻が口をきいてくれません』を読みました。私は気になった本はとりあえず片っ端から買って読んでみることにしているんですけど、ネットで話題になっていたこの本は、買って、読み終わって後悔しました。その救いのない幕切れの後味があまりに…

料理と利他

土井善晴氏と中島岳志氏の『料理と利他』を読みました。出版社の企画で行われたオンラインイベントを書籍化したもので、基本的にはお二人の対談です。私は対談本にあまりいいイメージを持っておらず、それは単に対談を文字に起こしただけで、文字数の割には…

出版翻訳者なんてなるんじゃなかった日記

宮崎伸治氏の『出版翻訳者なんてなるんじゃなかった日記』を読みました。新聞広告で見つけて、これはきっと私たちに向けて書かれた本に違いないと思ってすぐに購入し、面白くて一気に読了。面白いけれど、こんなに怖くて気分の悪くなる本も久しぶりでした。 …

フランス語っぽい日々

じゃんぽ〜る西氏とカリン西村氏の『フランス語っぽい日々』を読みました。月刊誌『ふらんす』に連載されていたマンガとコラムを一冊にまとめたものです。私はじゃんぽ〜る西氏のマンガのファンで、氏の作品はほとんど読んできました。『パリが呼んでいる』…