ウクライナ情勢についての新書を三冊、先週末にまとめて読みました。①手嶋龍一氏と佐藤優氏の『ウクライナ戦争の嘘』と、②エマニュエル・トッド氏と池上彰氏の『問題はロシアより、むしろアメリカだ』、それに③舛添要一氏の『プーチンの復習と第三次世界大戦序曲』です。
三冊はそれぞれ論じる角度こそ違えど、今時のウクライナ情勢・ウクライナ戦争についてはかなり近しい見方をしています。それはまず、いまの日本のマスメディアが報じている「ロシア=悪/ウクライナ=善」という単純な二項対立でこの問題を捉えるべきではないということ(もちろん戦争を発動したロシアには大きな非があることは明白だとしてもーーこの点も三冊に共通しています)。ロシアとウクライナをめぐる歴史について私たち(日本人)はかなり理解が浅いということ。そしてこれが冷戦後の米国一強であった国際秩序から新しい国際秩序へと移行する過程でのせめぎあい、ないしは権謀術数の応酬であるというリアリズムをもっと理解すべきであることです。
①は対談されているお二人の、やや「他のやつは何も分かっちゃいない」的な語り口にクセがありますけど、この戦争の後ろでアメリカの軍産複合体が大いに利を得ているという指摘や、長期的にはアメリカがこの戦争を利用してロシアと、それからドイツなど他の国々の弱体化をも目論んでいるという見立てに納得感を覚えました。この点は②でも論じられています。②は活字の大きい対談本で、かつトッド氏の主張は他の氏の著作でもほぼ同じものに触れていたので、個人的にはあまり新味はありませんでしたが。
③は題名がやや大仰で、かつ著者が「あの」舛添氏なので最初はちょっと「引き気味」に読んでいたのですが、この三冊の中ではいちばん勉強になりました。第一章のプーチン伝についてはフィリップ・ショート氏の大部の『プーチン』をぎゅっと圧縮した感じで簡潔にまとまっていますし、第二章と第三章のロシア・ソ連史についてもタタールの軛やキエフ・ルーシあたりから説き起こしていて概略を一気に掴むことができます。
ウクライナの現実についても「侵略者ロシアが弾劾されるのは当然だが、『ウクライナが無謬で100%善を体現している』などという幻想は捨てたほうがよい。この国は、ロシアと並ぶ汚職、腐敗大国であることを再認識すべきである」と手厳しいです。舛添氏はそのタレント的な活動や政界に進出してからのすったもんだでずいぶんイメージを落としましたが、本来はこういう本を世に問うことができる学者さんだったんだよなあと認識を新たにしました。