ふらっと立ち寄った書店で偶然手にとり、ページをぱらぱらとめくっていたら、断続的に目に飛び込んでくる言葉や文章が次々と心に響きました。こういうのを「本に呼ばれる」というのでしょうか。手にとったのは白央篤司氏の『はじめての胃もたれ』でした。これがあるからリアルな書店が街からなくなってしまうと困るのです。Amazonじゃたいてい最初の数ページくらいしか「ぱらぱら」できないですし。
中高年にいたって自覚する、それまでに感じたことのない身体の変化。書名にもなっている胃もたれにはじまり、脂に弱くなった(この本では「耐脂性(たいしせい)」という絶妙なネーミングも紹介されています)、そもそも量が食べられなくなった、若い頃より野菜が好きになった、お酒に弱くなった、運動不足に体力不足、塩分過多の問題、そしてキレまくる老人まで一直線なんじゃないかオレ問題……いちいち「そうそう!」と共感することしきりの文章がたくさん。
白央氏は私よりひと回り年下でいらっしゃるけれど、ちょうどここ数年自分が直面してきた「更年期」以後のあれこれをすでにして経験され、それにもとづいて思考されています。正直、読みながら思わず、年齢的にはちょっと早いんじゃないのかしらとも思ったのですが、これはたぶん違いますね。私が自分の身体の変化を体感して思考を深めるのが遅すぎたのです。
加えて、ご自身は「面倒くさいのは苦手」とおっしゃっていますが、私などよりはるかにマメで細かい暮らしに関するあれこれを臆せずやっておられると思いました。そしてご自身の変化に最初はおののきつつも、ものごとの見方や捉え方をしなやかに変えていくそのスタンスにとても励まされるような気がしました。
フードライターというお仕事をされている白央氏ならではだと思いますが、文章に織り込む形で料理のレシピもたくさん紹介されています。私も炊事担当なので、これもまたとても楽しい。料理本みたいな写真はないけれど、そのぶん読みながら想像がふくらんで自分なりの手順や出来上がりが脳内に浮かび上がってきます。
これは新たな発見だったのですが、いわゆる料理本というのは写真というかビジュアルがメインになっているものの、あれはプロの写真でありビジュアルなので、逆に作り手を縛ってしまう可能性があるかもと思いました。レシピ通りに作ることが大切なこともあるけれど、そこから料理を(というか炊事を)自家薬籠中のものにするためにはじゃまになることもあるんじゃないかと。
ともあれ、同年代のご同輩にはとくにおすすめ(お若い方が読んでももちろんいいけど、たぶん共感するのがいささか難しいかもしれませんーーかつての自分のように)の一冊です。