インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

冷蔵庫の在庫管理をめぐって

約八ヶ月から九ヶ月ほどに一度のお楽しみ、よしながふみ氏のマンガ『きのう何食べた?』の最新第16巻を読みました。新刊が出るたびに記事を書いているような気がしますが、今回もいろいろと感慨深いものがある一冊になっていました。私は主人公の筧史郎氏・矢吹賢二氏とほぼ同年齢で、しかもこの作品では登場人物たちが現実の時間経過とともに歳をとっていくものですから、その中高年齢期における様々なエピソードに、とてもリアリティを感じながら読めるのです。

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きのう何食べた?(16) (モーニング KC)

今回も、両親が老人ホームへ入るために実家の建物と土地を売却する話が出てきます。これなどまさに私たちの年代がリアルに直面するお話ですよね。細君の実家は去年処分しましたし、私の実家も今後どうするかを考えるタイミングが遠からず訪れるだろうと予想しています。

この作品は基本「料理マンガ」ですが、料理に絡めた日々の暮らしのあり様、その人間描写が本当に味わい深いです。普段から家事、特に炊事している者にとっては「そうそう!」と共感できるエピソードがたくさん登場するのです。今回特に唸ったのは、こちらの場面。シロさんが牛丼を作ろうと思って、冷蔵庫にあと一個残っているはずだった玉ねぎを使おうとして、それを賢二に使われちゃってたというシーンです。

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これは冷蔵庫の中身の把握についてなんですけど、確かにこういうすれ違いというのはあります。私も仕事から帰宅するときはたいがい冷蔵庫の在庫について思い出しつつ、スーパーで買物をして献立を決めているのですが、時折予定していた在庫を細君に使われちゃってて、予定が大幅に狂うんですよね。

だからってお互い「これ使っていい?」と聞くのも面倒ですから仕方がないんですけど、例えば前の日にグラタンをバットいっぱいに作って「今晩はアレを温め直して、あとはサラダくらいで手抜きを……」と目論んでいたところ、細君がお昼にごっそりグラタンを食べちゃってて「あ゛〜っ!」というようなことがけっこうあります。

まあ他愛のないことで、それならそれでシロさんみたいに計画変更を考えればいいのです(マンガでは上掲のコマのように、賢二が急遽玉ねぎを買いに出かけます)。が、こういう他愛のない、しかし普段からまめに炊事をしている人じゃないと分からないであろう「そうそう!」「あるある!」なエピソードを盛り込んで作品を作っちゃう、よしながふみ氏の職人技を、今回も堪能したのでありました。

そしてもう一つ、シロさんも賢二もそれぞれに「責任ある立場」に就くというテーマが静かに流れているのですが、あまり書くとネタバレになるのでやめておきましょう。ただこれも、私たちの年代には「あるある」なテーマだなあと思いました。もっとも私は、今にいたるまでそういう立場に就いたことは一度もない人間なんですけれども。