インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

きのう何食べた? 23

ほぼ半年から1年弱ほどの間隔で新刊が出る、よしながふみ氏のマンガ『きのう何食べた?』の最新第23巻を読みました。ネタバレは控えますが、この巻には主人公のシロさんとケンジのこれまでが集大成されたような展開があって、もしかしてこれで大団円なのかしらと思いました。でもどうやら今後も物語は続くみたいです。よかったよかった。


きのう何食べた? 23

それにしても、帯にも「シロさん祝還暦!!」とありましたが、いつの間にかそんなに時が経ったのですね。私は2007年に出た第1巻からずっと楽しんで読んできましたが、初回に登場したシロさんは当時43歳という設定でした。しかもこのマンガ、登場人物が全員リアルタイムで歳を重ねていくという、いわば「逆サザエさん時空」に則っており、2024年の今年でちょうど還暦つまり60歳に到達したというわけです。

思い返せばこのマンガは、LGBTという言葉が日本社会ではまだ人口に膾炙していなかった頃から*1性的マイノリティについてきわめて進んだーーというか、個々人の生き方の自由というごくごく当たり前のーー価値観や世界観がベースになっており、あらためて作者よしながふみ氏の先見の明、あるいは遠い将来までをも見通す教養の力強さが際立っています。

この第23巻でも、最終話の一番最後のコマでの「それが何か?」とでも言いたげな悟郎くんのひとことがさりげなくも痛快です(ネタバレになっちゃうので、なぜ悟郎くんがそう言っているのかは本作をお読みください)。同性婚はもちろん選択的夫妻別姓(夫婦別姓)でさえ積極的な推進を表明できないリーダー候補が過半数を占める、どこかの政党関係者にはこのマンガを熟読玩味のうえ、その何週もの周回遅れ&時代遅れを自覚していただきたいものです。

もちろん現実の世の中は、このマンガに示された世界からはいくぶん遅れていて、ここまで教養と分別のある人たちばかりで構成されていないことは分かっています。それでもここには明るく穏やかな未来がある。しかもそれは現実からつかず離れずのすぐ先にいて、決して不可能な未来ではないと思うのです。

同時代にリアルタイムでこの作品を読むことができて本当によかったと思えるマンガです。しかも私はシロさんとまったく同い年なんですよね。というわけで私もちょうど、きのうで干支が一巡しました。このマンガ同様、明るく穏やかな未来を期待したいものです。

*1:言葉自体は1980年代からあり、日本でも2000年代には使われ始めていたようです。「LGBT」という言葉は、いつから使われ始めたのか知りたい。 | レファレンス協同データベース