インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

移動図書館

けさの新聞に、東京都町田市の移動図書館そよかぜ号」の話題が載っていました。ああ、まだ活躍していたんですね、移動図書館。私が子どもの頃に住んでいた団地の集会所にも、この写真そっくりな移動図書館が定期的にやってきていて、毎回楽しみにしていたことを思い出しました。

その移動図書館で借りた本のことをやけによく覚えています。その後も通常の(?)図書館で借りた本は数しれないのに、なぜか子どもの頃に移動図書館で探して借りた本の数々が強く印象に残っているのです。あの狭い空間に乗り込むことじたいに何かワクワク感があったからなのか、スペースに限りがある移動図書館だけに、司書さんが良書を厳選して載せていたからなのか。おそらくその両方なんでしょう。

とくに『エルマーのぼうけん』シリーズや『ゆかいなホーマーくん』などの海外童話の翻訳版がいまでも印象に残っています。どちらも現在にいたるまで版を重ねているようですから、これはもう定番中の定番ですよね。長じてからホーマーくんの原書である“Homer Price”を買い求めたくらい気に入っていました。


エルマーのぼうけん


ゆかいなホーマーくん

あとなぜか私が利用していた移動図書館には海外の絵本の原書がたくさん積まれていて、『Dr. Seuss's Sleep Book』などはその奇妙な世界観をいまでも覚えています(もちろん英語はぜんぜん読めなかったけど、絵が独特で)。それからアンデルセンの『みにくいアヒルの子』みたいな有名な絵本の原書も借りた覚えがあります。アルファベットのAの上に丸がついた文字(å)とかOに斜めの線が入った文字(ø)とかがあったのが不思議で、かつものすごく外国感満載な感じで。いまから思えばあれはデンマーク語版だったのでしょう。なぜそんな絵本が移動図書館にあったのかは謎ですが、自分の外語へのあこがれは、あの頃に芽生えたのかもしれないと思います。

移動図書館で借りて一番好きだったのが、永井明氏作で長新太氏が挿絵を描いている『ボンボンものがたり チビの一生』です。これは戦争中の日本を背景にした、基本的にはとても悲しいお話なので、幼い私にはショックも大きかったのですが、いまでもよく覚えていますし、思い出すといまでも胸がしめつけられるような気がするくらいです。長新太氏の絵がまたいいんですよね。氏の絵はこの本に限らずどれも大好きです。

もちろんいまでは絶版になっていて、私は古本屋さんなどでかなり探したことがあるのですが、けっきょく見つかりませんでした。それでもあきらめきれなくて、復刊ドットコムでリクエストを出しているほか、日本の古本屋とメルカリで出品があったらお知らせが届く設定にしてありますが、もうかなり長い間まったくヒットしていません。

この作品は児童文学の傑作と位置づけられているようで、図書館ではいまでもけっこう借りることができるみたいですから、遮二無二購入しなくたってよいのですが……どなたか書棚にこの本が眠っていて、もう必要ないという方がおられましたら、ぜひご一報くださいませ。