インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

電車吃漢

台湾のSNS「Dcard」のYoutubeチャンネル「Dcard Video」で二ヶ月ほど前から始まった新企画『電車吃漢』がおもしろいです。早朝に台北駅のあの巨大なホールから始まる一種の旅番組なのですが、その場でたくさんあるチケット状のカードの中から目隠しをして一枚引き、すぐその場所に電車で移動して現地のおもしろいもの、おいしいものを探すという趣向です。


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完全に出たとこ勝負、かつ向かうのは台北在住の台湾人自身も「それ、どこ?」みたいな各駅停車しか止まらないローカルな駅ばかり(最初に引くチケットをそういう駅ばかりにしてあるんでしょうね)。これまでに4集公開されていますが、引き当てたのは「歸來(屏東縣屏東市)」、「日南(臺中市大甲區)」、「三民(花蓮縣玉里鎮)」、「東竹(花蓮縣富里鄉)」でした。

つまりは日本のテレビ番組になぞらえていえば、『モヤモヤさまぁ~ず2』と『鶴瓶の家族に乾杯』と『日本列島ダーツの旅』を足して3で割ったような企画です。でもまず「モヤさま」ほど予定調和ではなく、ヒッチハイクしたりインタビューしたりしながら意外な場所に導かれるのがなかなか刺激的です。そして「家族に乾杯」ほど家族にフォーカスはしないものの、気さくでおもしろい台湾の人たちが登場して楽しい。さらに「ダーツの旅」では場所によってはけっこう大掛かりな企画にならざるを得ないところ、基本的にすぐ現地へ行って一泊二日でロケができちゃう台湾の「こぢんまりさ」が企画にとても有利に働いています。

それから「吃漢」の名の通り、Dcardの男性メンバー二人がいろいろと食べ歩いて「食レポ」するそのほとんどが台湾のB級グルメで、これもまたB級グルメ好きとしては魅力的なのです。1集から3集まではDcardのRio氏と大書氏が出演していましたが、4集ではRio氏とLeo氏のコンビになりました。彼らが時に台湾語客家語もくりだして現地の人々の懐にするっと入り込んでいくその話術がすごいなあ、コミュニケーション能力の高さが際立っているなあと思います。いわゆる若者言葉を外国人の私などが真似するとろくなことはありませんが、それでもあんなふうに國語(中国語)を話せたら気持ちいいだろうなと毎回見ながら思います。

あと、現地の人々の側も、白シャツと黒ズボンに黒いネクタイをした二人組の男性*1に、初手からとてもフレンドリーに接しているのが、見ていてなんだかとても和みます。もちろん実際にはいろいろな人がいて、企画の雰囲気に沿わない部分はいろいろと編集もされているのでしょうけど、総じてみなさんすごく優しい。こういう「人情味」みたいなところも、この企画に特別な雰囲気を与えていると思います。

ひとつだけ無粋かもしれないですけど、やっぱり書いておかざるを得ないのは、この企画のタイトルである「電車吃漢」はおそらく吃漢(chīhàn)と癡漢(chīhàn)をかけていて、このセンスはちょっとどうかなという点です。もちろん中国語の“癡漢(痴漢)”はもともと「愚か者」とか「痴れ者」(の男)という意味で*2、それが日本に入ったあと、現代にいたって「見知らぬ女性にみだらなことをする男性」という意味に収斂してきたわけです*3

ご存知の方も多いかと思いますが、台湾の芸能界では日本の「アダルト文化」(?)をギャグとして用いるような「芸風」が一部にあって、その一端についてはこのブログでも書いたことがあります。

qianchong.hatenablog.com

で、「電車吃漢」というこの企画名はDcard Videoのオリジナルではなく、かつて『美食大三通』という番組に同名のコーナーがあって、それが元になっているみたい*4


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このコーナーも日本でのロケにこのタイトルを使っていて、つまりは日本では電車における痴漢が多いというのが前提の知識としてあって、それで日本の電車で“chīhàn”をするというのがキャッチーな一種のギャグになっているのだと推察します。う〜ん、でも、日本人としてはいろいろと情けなくて、やっぱり私はこのセンスにはちょっと頷きがたいのです。

*1:これは『ブルース・ブラザーズ』とか『メン・イン・ブラック』とかへのオマージュなのかしら。

*2:西遊記』や『金瓶梅』などにも例があるそう。

*3:このような研究もあります。

*4:たぶん。もっと以前の例をご存知でしたら、ぜひご教示ください。