インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

台湾は三分の一が……

『天下雜誌』のポッドキャストを聞いていたら、艾爾科技(L Labs)CEOの林宜敬氏がこんなことをおっしゃっていました。

我一直認為說台灣的文化基本上是三分之一中華文化、三分之一日本文化、三分之一的美國文化。只是我們台灣人自己可能不覺得,但是像我這樣經常在國外這樣到處跑的,我就會很深的感受,其實台灣就是這三種文化的融合。


私はつねづね、台湾の文化は基本的に三分の一が中国文化、三分の一が日本文化、三分の一がアメリカ文化だと考えています。台湾人自身は気づいていないかもしれませんが、海外へよく行く私のような人間にとっては、台湾は実は三つの文化が融合した国なのだとしみじみ感じられるのです。



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私は華人ではありませんので、国家や政体についてどうこう、ましてやどうあるべきかということには踏み込みません。ただ、林氏がおっしゃっていることはとてもよくわかる気がしました。私自身、仕事や旅行などでつねづね似たようなことを感じていたからです。

もちろんこれは基本的には台湾の都会の、それもいわゆる“知識分子(インテリ)”と呼ばれるような人たちを取り巻く文化や環境については、というただし書きがつきます。それにひとくちに文化といっても、中国も日本もアメリカも多様ですから、これは林氏のフィールドであるビジネスにおける文化や環境について、とさらに範囲を限定すべきかもしれません。

ただ、先日ご紹介した台湾発の大学生限定SNS“Dcard(狄卡)”のYoutubeチャンネル“Dcard Video”に登場するお若い方々の発言や振る舞いなどを見ていても、また自分の職場で出会う台湾人留学生に接していても、同じような感覚を抱くことがあります。それで林氏の発言を聞き、あらためて自分の感覚を再確認したというわけです。

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台湾の長く複雑な歴史を雑駁にまとめて語ることはしたくありませんが、少なくとも近代以降の歩みとしては半世紀にわたる日本統治時代、その後の国民党政府時代、さらに1970年代における国連からの「追放」にともなう日米との断交……と、ここまででもかなり特殊な歴史がありました。

その後台湾が「国際的な孤児」となりながらも懸命に独自の模索を続け、アジアで最も民主的な国となった*1ことはご承知のとおりです。そんな台湾が経てきた歴史ならではの「三つの文化の融合」という自己認識には、それなりに説得力があります。

もっとも日本人の私としては、そんな台湾に日本文化が三分の一も寄与していると言われるのは、植民地統治の歴史も踏まえればかなり忸怩たる思いがありますし、むしろ日本があちらの文化なりビジネスのやり方なりに学ぶところも多いのではないかと思うことがありますが。

林氏は、だから台湾人はビジネスにおいて、日本人の考え方もアメリカ人の考え方もよく分かっている、それが我々のアドバンテージだとおっしゃりたいのでしょう。ここから私たちがくみ取るべきは、では日本人は台湾人の考え方やアメリカ人の考え方、さらに加えていえば華人といってもこれまた異なる中国人*2の考え方をも理解する努力をしているだろうか、ということになろうかと思います。

*1:イギリス『Economist』誌の調査部門Economist Intelligence Unit(EIU)による最新の民主主義指数(Democracy Index)で台湾は10位になっています(日本は16位、アメリカは29位)。

*2:「中国人」とはそもどんなカテゴリーなのかを語りだすとキリがないので、ここでは雑駁さを承知で中華人民共和国の人々、なかんずくその政府やビジネスパーソンと限定しておきます。「日本人」や「アメリカ人」についても同様です。