Twitterのタイムラインで、こんなツイートに接しました。
中国 サンマが大ブーム 火付け役は中国の"フクヤマ"#しゅうけつりん#ジェイチョウ#周杰倫#七里香 #台湾#秋刀魚 #モーニングショー #テレ朝 pic.twitter.com/7D2LB5RbMo
— Kumi (@tokyohongkong) 2018年7月17日
秋刀魚の漁獲量をめぐる今朝のモーニングショーの報道で、中国で秋刀魚が人気になっている理由のひとつとして周杰倫(ジェイ・チョウ)氏のヒット曲『七里香』が取り上げられたというのです。
「なぜ今になって」という思いもさることながら、「中国の福山雅治」とか「しゅうけつりん」や「しちりこう」というルビとか……私はリツイートで「どこから解きほぐして差し上げればよいのか分からないこの軽い絶望感はなんですかw」と書きました。
https://twitter.com/QianChong/status/1019041234675830784
『七里香』といえば、もうずいぶん前の曲です。ブログにこの曲のことを書いた覚えがあって、さっき検索してみたら2004年でした。14年前ですね。
そこで、私もさっそくその番組を見てみました(七里香の話題は25:56ごろから)。
これは……。映像を見ているうちに、少々不愉快な気分になってきました。キャスターやコメンテーターの取り上げ方が、どこか小馬鹿にしたような口調であること、アーティストやその作品に対するリスペクトに欠けているのではないかということなどがその理由です。
詳細はぜひ映像をご覧いただきたいのですが、「中国の通訳さんの主観も多分に入っている」とした上で「中国で人気があるイケメンのアーティスト」と紹介して笑いをとるところから始まり、歌詞を解説しながらこんなコメントが続きます。
「どういうこと?」
「秋刀魚の香りが初恋の香りということ?」
「たぶん推測だけど、僕らにとって秋刀魚って、昔から食べているどっちかって言うとアレだけど、伝統の味ってことだけど、(中国の人にとっては)新しいものっていう感覚があるからなんじゃないの? その、流行り物というかさ。最近食べるようになった、ね、ちょっとおしゃれ感が残っている食べ物なんじゃないの」
「(この秋刀魚が書かれた)三行目、要らないと思うんですよね」
「急に秋刀魚と猫が出てくる」
「これたぶんね、先に曲を作っちゃったんだよね。で、一行足らなくて、う〜んどうしようかなあって、その時たまたま秋刀魚を食べてたんだよ」
「全くちょっと理解はできないですけれども」
大手メディアのモーニングバラエティ番組に目くじらを立てても始まらないかもしれませんが、これはアーティストに対して失礼ではないかと思います。
14年も前の曲に触発されて現在急に中国で秋刀魚の消費量が増えたわけでもないでしょうし*1、もとより周杰倫氏は台湾のアーティストです。羽鳥氏はじめ日本の出演者はこの点に疎いとしても、この話題を提供した「中国の通訳さん」は何をしていたんでしょう。「中国のフクヤマ」などというフレーズを「主観」で伝えるだけじゃなくて、きちんと文化背景も伝達してほしかったと思います。
しかも、『七里香』の作詞者は方文山氏です。こちらのインタビュー記事を読めば、「秋刀魚」は小津安二郎氏の映画からインスピレーションを受けて、繊細な感覚を描写したものであることがわかります。
https://kknews.cc/entertainment/z6lzgja.html
周到君:“秋刀鱼的滋味,猫跟你都想了解”这些歌词中出现的动物,是一种有特别意味的设定么?
方文山:秋刀鱼的滋味其实源于小津安二郎的电影,(周到君查了一下:在1962年,小津安二郎执导了由冈田茉莉子、杉村春子主演的剧情片《秋刀鱼之味》,这也是他过世前最后执导的作品,获选日本《电影旬报》年度十佳影片。想了解秋刀鱼的可以看看。)看了电影之后很有印象,写歌词的时候觉得,诶,秋刀鱼很特别,那猫想吃秋刀鱼,所以接下来“猫跟你都想了解”就是一种感情细腻的描写。
台湾の周杰倫氏と方文山氏が『七里香』というこの曲に「秋刀魚」を持ち出したのは、歴史的な経緯から日本文化を受容してきた(せざるを得なかった)台湾ならではの背景が潜んでいると私は考えます。
周杰倫氏はかつて東京で行われたコンサートで「桃太郎」の歌を歌い、これは自分が子供の頃におばあさんが歌ってくれたものだと日本の聴衆に紹介しました。桃太郎といえば、政治的な文脈では「侵略者」として捉えることもできる「微妙」な存在。ましてや台湾は、かつて日本によって50年間に及ぶ植民地統治を受けました。おばあさんが「桃太郎」の歌を日本語で歌えたのは、まさにそうした統治下で行われた日本語教育の成せる技だったわけです。
そんな歴史的な経緯のある台湾の周杰倫氏が、その歌を逆に日本の聴衆に対する親密さの証として歌ってくれた。いわば、侵略の歴史をあちらから乗り越えて私たちに語りかけてくれたわけです。私はその姿勢に感銘を受けましたし、日本的なアイコンとしての「秋刀魚」を歌詞に取り入れた『七里香』もそれと同じ文脈で捉えるべき、つまり日本人にとってはまさに秋刀魚のように滋味深い味わいとして捉えるべきだと思うのです*2。
そんなこんなの背景をいっさい知らず、知ろうともせず、軽い笑いのうちに紹介してしまった番組に不快感を覚えた次第です。羽鳥氏は「どういう音楽なのか聞いてみたい」とおっしゃっていましたが、ぜひ聞いてみていただきたいと思います。