インタプリタかなくぎ流

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王菲を知らないって

先日留学生の通訳クラスで「その時代の流行歌」という話題が出てきたので、私が中国語を学んでいた頃は歌手の“王菲(ワン・フェイ/フェイ・ウォン)”が人気でした……と言ったら、なんとほとんどの華人留学生がその名前を知りませんでした。「センセ、“網飛(ワン・フェイ/Netflix)”のことですか?」って。


王菲 - Wikipedia

うそー、王家衛ウォン・カーウァイ)監督の《重慶森林(邦題:恋する惑星)》に梁朝偉トニー・レオン)とか金城武とかと一緒に出てたじゃない、蘇軾の宋詞《水調歌頭》を歌った鄧麗君(テレサ・テン)の《但願人長久》をカバーした曲もヒットしたし、《夢中人》とか《曖昧》とか《執迷不悔》とか他にもヒット曲がいっぱいあるじゃないと言ったものの、王家衛梁朝偉金城武も鄧麗君も知っているけど王菲は知らないって。


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でもまあ、留学生のみなさんはほぼ20歳代ですし、王菲はここ10年ほど目立った活動がほとんど伝えられていませんから、無理もないのかもしれません。《夢中人》はいろいろなカバー曲があるので留学生のみなさんも「聞いたことある!」と言っていました。《但願人長久》は王菲のは知らないけれど、鄧麗君のは逆に知ってるって。なるほど。


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思い返せばあの当時、「韓流」に対抗した(?)「華流」などの名称で、C-POPが日本に浸透しかけた一時期があったのでした。香港の“四大天王”ーー張学友(ジャッキー・チュン)、劉徳華アンディ・ラウ)、郭富城(アーロン・クオック)、黎明(レオン・ライ)が次々に来日してコンサートやイベントを開くとか、あと張國榮レスリー・チャン)や周杰倫ジェイ・チョウ)もコンサートがありました。王菲もコンサートを開いた上に、日本のドラマに出演したこともありましたねえ。

そのドラマ『ウソコイ』は、いまでも覚えていますけど、最終回の放送中(私もリアルタイムで見てました)に9・11のアメリカ同時多発テロ事件が起こって、緊急報道番組のために中断、後日再放送になったのでした。そうか……あれが2001年だから、あれからも22年も経っているんですね。そりゃ20歳代前半の留学生諸君は「誰?」ですよ。


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その後台湾のドラマが次々に日本に紹介されるなど台湾からの風も吹いたことがありました(「華流」の向こうを張った「台風(たいふぉん)」というキャッチフレーズはあんまりヒットしませんでしたね)。F4(エフフォー/エフスー)とか飛輪海(フェイルンハイ)とか、懐かしいですね。でもF4はデビューが2001年、飛輪海も2005年だから、これもふた回り前の時代のお話。


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私はコロナ禍の前くらいまではこうしたエンタメ関係でいろいろお仕事をさせていただきましたが、それもいまでは皆無です。ネット動画やサブスクの動画配信サービス(網飛のような)もよりどりみどりになり、そもそもエンタメ消費の方向が飛躍的に細分化して行きつつあるいま、そしてこれからは、もうあんなふうにC-POPやドラマのような中国語圏のエンタメが規模の大きいムーブメントを起こすことはないのかもしれません。そんなことを現代の留学生のみなさんの「王菲? 誰?」から感じたのでした。