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千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話

済東鉄腸氏の『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』を読みました。長い長いこの書名がほとんどこの本の内容を表してしまっているのですが、最初は誰でも「どゆこと?」と思うかもしれません。私も思いました。


千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話

というか、語学関係者であればこの題名に少なからず脊髄反射して、そんなに簡単になれるわけないじゃないかとか、語学を舐めんじゃねえなどの呪詛を吐きたくなってしまうと思います。でも読んでみれば分かりますが、氏の語学に対する向き合い方は言ってみれば「超オタク」的。いやむしろ、こういうオタク的な突き抜けた情熱がなければ外語はモノにはならないよなあという深い納得感に行きつきました。

特にSNSを駆使して、ルーマニア語母語話者とどんどんつながっていき、そうした人々からルーマニア語についての気づきやルーマニア語で発表するチャンスを得ていくプロセスは圧巻です。ご本人は「引きこもり」ではあるけれど、ネットの世界においては極めつきの「コミュ強」であるわけです。これも現代の語学環境ならでは。これまでとはまったく違った語学の学び方の可能性を示唆してくれます。

氏にとってはこれが最初の本ということですが、語り口がとても巧みでその文体のリズムに引き込まれますし、さまざまな話題の引き出しを持っておられるので、飽きることなく最後まで一気に読了しました。また日本語母語話者にとってマイナーな言語を学ぶ際には、やはり英語をある程度使えるほうが便利というのも、フィンランド語を学んでいる自分の実感に照らしてそのとおりだなあと思いました。

ただひとつだけ、初中級のルーマニア語をどのように学んでいったのかについてはほんの少しだけしか記述がありません。氏のテーマはルーマニア語で詩や小説を発表することにフォーカスしているので仕方がないのですが、語学の学習者としてはそこのところももう少しお聞きしたかったです。