インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ロシアの「Z」とウェラーマン

2022年2月にロシアによるウクライナへの侵攻が始まってからほどなくして、日本のニュース番組でこんなプロパガンダ映像が紹介されたことがありました。


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ロシア軍のトレードマークとして採用され話題となっていた「Z」をモチーフにして、看護師と思しきコスチュームのダンサーを従えた女性二人が歌っているこの映像。『ATRAS NEWS』にその背景と歌詞の英訳が載っていて、歌い踊るのは戦場に夫や恋人を送り出した女性という体(てい)で構成され、ロシア軍への支持が歌われていると解説されていました。当時私は「銃後」という言葉を思い出してうんざりしたことを思い出します。

theatlasnews.co

ところで最近私はこの歌が、スコットランド出身のネイサン・エヴァンズ (Nathan Evans)がカバーした 「ウェラーマン(Wellerman)」という曲だということを知りました。職場の学校で学んでいるベラルーシ人の留学生が教えてくれたのです。そう知ってあらためて上掲のYoutube映像を聴きに行ってみたら、コメント欄に“is this the Wellerman (Sea Shanty) melody?”と書き込んでいる方がいました。そうだったのか〜。


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もともとネイサン・エヴァンズがTikTokに投稿したものが爆発的にヒットしたもののようで、この曲で彼はメジャーデビューを果たしたそうです。さらに実はこの曲、Youtubeのコメント欄にも書かれているように「シー・シャンティ(Sea Shanty)」あるいは「スーン・メイ・ザ・ウェラーマン・カム(Soon May the Wellerman Come)」という19世紀ニュージーランドの民謡で労働歌だったんですね。それぞれメロディは細部が若干異なりますが、ニュージーランドの沖合でクジラを追っていた人々も、よもやこの曲が百年、二百年後にウクライナ戦争のプロパガンダに用いられるとは予想もしなかったでしょうね。


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私はプロパガンダ映像をはじめ、労働歌やプロテストソングや革命歌のたぐい、さらにはフェイク動画とその影響力などにとても興味があって、ネットを渉猟してはあれこれ集めて授業で紹介したり留学生のみなさんと意見交換したりしているのですが、またひとつ「ネタ」が増えました。それにしてもこの「キャッチー」なメロディ。しばらく脳内でのヘビロテが持続しそうです。