インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

プーチン

作家で元外務省ロシア担当主任分析官の佐藤優氏が、「東京大地塾」の動画でフィリップ・ショート氏による評伝『プーチン』を絶賛されていました。当事者に徹底した取材をし、関連資料を読み込んで書かれたというこの評伝、佐藤氏は友人でもあるというエマニュエル・トッド氏の言葉を引用しながら、こう紹介しています。

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イギリスの報道とインテリジェンス分析の質が著しく低下している。ひとことで言うとインテリジェンスとプロパガンダが一体になっているから、情報分析をする場合、イギリスの国防省や、それから『ガーディアン』、こういったものの情報がほとんどあてにならない。(でもこの本は)古き良きBBCの、またイギリスのインテリジェンス文化が生きている。自らに不利な事柄であっても、あるいは不愉快な出来事であっても、プーチンの内在的論理を掴むというアプローチをきちんとしている。

なるほど。ウクライナへの侵攻開始から1年あまり、私たちはいろいろな報道に接してきましたし、私自身もウクライナやロシア、それに今回のウクライナ戦争に関する本をいくつか読みました。でもそれらがほぼひとしなみに、ウクライナのゼレンスキー=善:ロシアのプーチン=悪という二項対立ばかりで彩られているのにどことなく違和感を覚えていました。

もちろんプーチン氏が主導した今次の侵攻は極めて愚かなことであったと私も思います。またいまのこの瞬間も現地で多くの犠牲者が出ていることに胸を痛めますし、一刻も早い停戦を望んでいます。それでも、プーチン氏、あるいは彼が率いるロシアの論理についてもっと理解したい(その論理を受け入れられるかどうかは別にして)と思っていました。また翻ってウクライナ側の問題や課題についても。

というわけで、動画を見てすぐにこの本を購入しようと思ったのですが、上下巻でおよそ1万円(下巻はまだ刊行されていません)! ちょっとインパクトのあるお値段でたじろぎました。……と、ちょうどその時、職場がある学校法人の図書館から「学生用推薦図書のお願い」というメールが。蔵書の充実を図るため「教科履修のための参考資料等をご推薦いただきたい」とのこと。


プーチン

それでこの『プーチン』上下巻を推薦してみました。あと上掲の動画でこれも絶賛されていた副島英樹氏の『ウクライナ戦争は問いかける NATO東方拡大・核・広島』も一緒に、学生さんにとっても日本国内のほぼ一色に染まった報道やプロパガンダとは違う視点から世界情勢を捉えることは有益ではないか……などと推薦理由を書いて。そうしたら申請が通って購入していただけることになりました。うれしいです。

まずは自分が読みたいくせに、こうやって学生さんを「ダシ」に使ってしまってごめんなさい(もちろん学生さんにもぜひ読んでいただきたいという気持ちに嘘はありませんが)。でも、うちの職場はいわゆる「科研費」みたいなものもまったくなくて、授業の参考として買う書籍はいつも「手弁当」なんですよね。というわけでこの『プーチン』はご厚意に甘えようと思います。

この本を書かれたフィリップ・ショート氏には、ほかにもポル・ポト毛沢東の評伝があるそうです。そのうち毛沢東の評伝は学校の図書館にあったのでさっそく借りてきました。


毛沢東 ある人生

……しかし。『プーチン』上下巻で約1万円といったって、ふだんスーパーで食料品を買うときにはほぼ毎日数千円単位でお金を使っているんですよね。いまはもう飲まなくなりましたが、かつてはワインなど、ときどき「自分へのご褒美♡」などと称してけっこうお高いのを買ったりもしてました。

もちろん食費と書籍代を単純に比べちゃいけませんが、そう考えると書籍というのはきわめてコストパフォーマンスのよい買い物なのだよなとあらためて思います。