インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

プーチンの影武者

きのうの「報道1930」で、ロシアのプーチン氏に影武者がいるという噂はどこまで確からしさがあるのかという特集をやっていました。番組によれば、戦勝記念日などの重要イベントや海外の要人と会うときのプーチン氏はおおむね「本物」だと思われるものの、戦争の前線、たとえばウクライナのヘルソンやクリミアなどに赴いて視察なり激励なりをしているプーチン氏はおそらく「影武者」なのではないかと疑われているそうです。


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しかも番組では、AIを使った顔認証システムを開発している企業の協力を得て、本人と影武者との一致度を判定するということもやっていました。その結果、影武者ではないかと疑われている「氏」と、プーチン氏の「そっくりさん」が極めて近い(低い)一致度だったと紹介されていて、私は思わず笑ってしまいました。

特に、プーチン氏が自らハンドルを握って対向車がある夜の道路で車を運転している映像など、本来なら対向車はもちろん前方も後続もすべて車を止め、なおかつ同じような車列を複数用意することまでして攻撃や暗殺に備えるロシアの(ソ連からの)伝統に照らせば極めて不自然で、影武者の可能性はかなり高いというような分析もなされていました。

さらにこうした影武者が万一狙われて、かつ重大な結果が引き起こされた場合(例えば殺害されるとか)、プーチン氏ご本人のロシア国内における人気や信頼にも影を落とす結果になるのではないかといったような解説もなされていて、なるほど、これは確かに興味本位で笑っているだけではすまないテーマなのだなと思いました。

で、翌日のきょう、旧ソ連やロシア関係の仕事に長く従事してきた同僚にこの話をしたら、「ん〜でも、ロシアの人たちはあんまり驚かないかもしれない」と言われました。いわく、権力者に影武者がいるのは「まあ当然だろう」とみんな思っているのに加えて、仮に影武者が襲われたあとにプーチン氏(本物の)がのこのこと現れたとしても、かの国の人たちはこれまた「まあそんなものだろう」と思うのではないかと。

つまり、権力者に影武者がいる、そうやって国民なり国際社会なりを欺いているという捉え方・考え方をすることそのものが、いわゆる「西側」の思考の枠組みだというわけです。もちろんそれがいいことだとは思わないし、民主主義的なあり方でもないと思うけれど*1、かの国にはかの国の国柄というか、政治や外交のやり方、世界への向き合い方があるのだと。

う〜ん、このあたり、今回のG7広島サミットでもウクライナに「フルベット(全掛け)」している日本外交のあり方にちょっと危ういものを感じたいっぽう、世界情勢に対してG7各国とは違った捉え方をしている招待国のインドやブラジルがとても冷静かつ“ 高瞻遠矚(物事を長いスパンで捉え、大所高所に立って考える)”に見えてしまった私としては、なんだかとても腑に落ちる気持ちがしました。

ことの当否はさておき、ロシアにはロシアの(あるいはプーチンにはプーチンの)論理と“思路(考えのすじみち)”があるというの*2、私たちはまだあまりよく分かっていない、踏み込んで知ろうともしていない、そしてマスコミも積極的には論じていないのではないかと思ったのです。職場の図書館で買ってもらえることになった『プーチン』上下巻、はやく読みたいです。

*1:とはいえロシアだって名前の上ではいちおう共和制国家、つまり主権は君主などの個人ではなく国民にあるとしている国なんですけどね。

*2:これは中華人民共和国、そして習近平に対しても同じかもしれません。