インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

情緒的な報道にはちょっとうんざり

知人と話していたら「最近はちょっとうんざりしてきた」と言っていました。連日接しているウクライナに関する報道についてです。ロシアによる侵攻が始まって二ヶ月あまり。過去のこうした紛争や戦争はたいがい数ヶ月から数年、あるいはそれ以上続いたことがほとんどですし、当事者にとっては常に命が奪われている過酷な状況です。

ですから、外野が「もううんざり」とか、ましてや「飽きた」などと言うのは不謹慎極まりないと思います。ただ私も、最近の、特に日本のマスメディア(新聞やテレビニュースなど)による多分に情緒的で勧善懲悪的な報道にはちょっと「うんざり」しているというのが正直なところです。

もちろん侵攻を発動し、いまも市民の犠牲を生み出し続けているロシアの、なかんずく最高責任者であるプーチン氏の非道は非難されるべきですが、じゃあ侵攻の最初から市民にも徹底抗戦を呼びかけているウクライナの、とりわけゼレンスキー氏のスタンスが本当に称賛に値するものであるのか。

私自身、この間キエフ大公国あたりからのかの地の歴史について、あちこちネットで探して知識を仕入れたり、ロシアに詳しい同僚にも教えを請うたりして、マスメディアの報道と突き合わせてきましたが、あまりにも事情が複雑で、事はそう簡単に白黒・善悪をはっきりと分けて捉えることはできないんだな……という思いが強くなるばかりです。

そんな中で昨日ネットで検索していて偶然見つけたこちらの記事には、色々と考えさせられるものがありました。菅野志桜里氏と伊勢崎賢治氏による対談です。

thetokyopost.jp

特にアメリカ+NATOに対するロシア、それとは別の軸にスタンスを置く中国とインド、そしてNATOとロシアの「緩衝地帯」としての国々についての伊勢崎氏の解説と提言には、情緒を極力排した理性的な姿勢を感じました。

個人的には、私はフィンランド語を趣味で学んでいることから、今回のウクライナ侵攻に絡んでロシアとフィンランドの関係にも興味を持ってきました。過去に統治された歴史を持ち、冬戦争と継続戦争の結果領土の一部を奪われ、1300kmにも及ぶ長い国境でロシアと接し、戦後東西の間で中立的な立場に腐心してきた同国。今回の事態で、フィンランドではNATO加盟を支持する世論が急上昇していると聞きます。そのフィンランドについても伊勢崎氏はこう解説しています。

首都ヘルシンキは、国際の秩序と安全のためにいろんな会議が開催された平和外交のシンボルです。ノルウェーオスロも同じです。こういう人権・平和外交を、国の外交資産としてきました。それは、ロシアを刺激しない平和な国だからこそ、国際的なコンセンサスをつくる外交の中心となれたわけです。
今回のウクライナ危機において、こういう国家の資産を全て根こそぎ消失させてしまうかというと、僕はそう簡単にはいかないと思うのです。
だから、ウクライナには、“かつて”のフィンランドみたいな選択肢もある。自由と民主主義の側で独自の軍も持つ。NATOと時々軍事訓練ぐらいはするけど、外国軍を常駐させることはしない。ましてやロシアにミサイルは向けない。それくらいの落としどころは交渉で探れるはず、と思うのです。
これをプーチンが飲むか飲まないか。プーチンの顔をどうやって立たせるか。それが、これから現われてほしい仲介者の役割だと思うのです。

なるほど。単にロシアを悪魔化して語るだけではなく、これまでの歴史も踏まえて「落としどころ」を探る(なにより戦争の犠牲者をこれ以上増やさないために)こうした論考をもっと読みたいと思います。そしてまた、ウクライナ側の功罪についても、情緒的・感情的ではない専門家の意見が聞きたいと思いました。ともすれば「ウクライナに『罪』などあるわけないでしょ、一方的な被害者なんだから」という、ほとんどのマスメディアが採っているスタンスに、そういう声はかき消されてしまいがちな現状ですから。

追記

伊勢崎氏がおすすめされていたこちらの動画も、とても参考になりました。

www.youtube.com