インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

しまじまの旅 たびたびの旅 137 ……僕と幽霊が家族になった件

高雄から台北に戻ってきて、またAirbnbで借りた部屋に投宿しました。予約したときには気づかなかったのですが、なんと先日借りた部屋と同じ巨大なビルの中にある別の部屋でした。Airbnbって、予約時には詳細な住所が明かされず、直前になって部屋へのアクセスや入室の方法が知らされることが多いので、こういうこともあるんですよね。民泊というイメージとはちょっと違って、自分が都心に持っている部屋(投資用?)を旅行客に貸している人も多いようで、このビルでもさまざまな部屋のオーナーが個別にAirbnbに載せているようです。

この部屋にはテレビがありますが、一般のテレビ放送はなくて全部ネット動画サイトというタイプでした。NetflixとかAmazon Prime VideoとかYouTubeなどから好きなのを選んで見るという。私は街の珍奇な事件を延々報道している台湾地元のニュース番組が好きなのですが、仕方がないからと適当に選んで見始めた一本の映画がおもしろくて、結局そのまま最後まで見てしまいました。許光漢(グレッグ・ハン)と林柏宏(リン・ボーホン/オースティン・リン)主演の『關於我和鬼變成家人的那件事(Marry My Dead Body)』です。現在日本でも邦題『僕と幽霊が家族になった件』で劇場公開されているそうです。


https://www.facebook.com/marrymydeadbody

台湾は現在“鬼月”の真っ最中です。鬼月は日本で言えばお盆みたいなもので、旧暦の七月にあの世との門が開いて、ご先祖様など死者の魂がこの世に戻ってくることができるとされている期間です。この一ヶ月間は魂を供養するために家の前にお供物をして線香を上げ、紙銭を焼いている光景がよく見られますし、“鬼門開了(鬼月の門が開いた)”のこの時期は信心深い方々にとってはけっこうセンシティブな期間のようで、善行をしましょうと呼びかけるテレビCMが流れるくらいです。例えばこちら。


www.youtube.com

そんな習俗が色濃く残る台湾の、これまた伝統的な習俗である“冥婚”をテーマにしたこの映画、麻薬捜査をしている警察官が、ひょんなことからこの世に未練を残しつつ亡くなったゲイの青年との“冥婚”をする羽目になる……というところから話が始まり、アクションとサスペンスに恋愛や家族の愛情を盛り込んだストーリーがコメディタッチで展開されます。“冥婚”については、ウィキペディアの「台湾」の項をご参照ください。

ja.wikipedia.org

娯楽作品としては文句なしに楽しめますし、台湾独特の習俗に加えて、アジア初の先進的な同性婚の法制化に踏み切ったこの国ならではのLGBTQに対する考え方も加味され、現代らしい物語になっていました。同性愛者の描き方に典型的なステロタイプが見られると思いきや、きちんとそれを補う視点も盛り込まれており、総じて社会全体の成熟したジェンダー感を反映していると私には感じられました。

個人的には、かつてトレンディドラマの脇役を数多くこなしていた許光漢氏が30代になって堂々の主役を張っていたこと、20年くらい前のドラマ『孽子』で印象的な青年を演じていた庹宗華氏(もう還暦だそう)がゲイの青年・毛毛の父親役で絶妙な演技を披露していたこと、さらに台湾映画でいかにも台湾らしいオヤジを演じさせたら右に出るものはいない蔡振南氏が登場していたこと……などなどがポイントでした。それから元・飛輪海の(などと形容する人はもういないですか)炎亞綸(アーロン)氏も出番は少ないものの客演していて、役どころにぴったりの演技でした。

日本でも劇場公開のほか、Netflixで見ることができるみたいですので、“鬼月”のいまこそ、ぜひご覧になってください。