インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

しまじまの旅 たびたびの旅 138 ……旅の終わりに

澎湖諸島でいつも泊めていただいている民宿のオーナーは私と同年代の女性で、澎湖生まれの澎湖育ち、生粋の澎湖人で歯に衣着せぬ直截な物言いが特徴のおもしろい人です。というか、彼女に言わせると澎湖人はたいてい誰でもそんな感じで、人情味にあふれていて、かつ誰にでもあけすけにものを言うのだそう。

あけすけにものを言い過ぎれば人間関係に角が立つこともあるだろうし、それは人情味あふれるっていうのと矛盾するケースもあるんじゃないかと思いましたが、これも彼女の言うことをよく聞いてみるに、もちろんネガティブな感情だって湧くことはあるものの、相手のことを大切に思うがゆえに自分に嘘をつかない、思ったことを思ったように言うということみたいです。

その彼女はクラシック音楽と旅行が趣味で、とくに旅行はもっぱら大自然を探訪することが多く、都会は大の苦手だと言っていました。クラシック音楽のコンサートなどは都会のホールじゃないとなかなか聴けないんじゃない?と言ったら、だからときどき「我慢して(?)」都会に出るけど、それ以外は大自然に親しむのが好き、と。そもそも澎湖が大自然の中にありますから、ふだんでも民宿が暇なときは海に出かけて、いろいろなアクティビティを楽しんでいるのだそうです。

コロナ禍が収束に向かいつつあったこの春、彼女は澎湖在住の日本人の友人と一緒に初めて東京に行ったそうです。彼女が東京みたいな大都会に行ったのは、もちろんさる著名な音楽家のコンサートが目的だったようですが、「東京の街にはほとんど魅力を感じなかった」と言われました(そのあと北海道へも行って、そちらは気に入ったそうです。とくに知床が素晴らしかったと)。

東京の街もそうだけれども、東京の人々はとても“壓抑(感情が抑圧されている)”な感じがしたと彼女は言っていました。東京に住んでいる自分としては、東京の街だって人々だって、それなりに魅力はあるんだ(もちろんマイナス面もあるだろうけれど)と反論したくなりましたが、でもそれは、少なくとも私個人にとっては「図星」なのでした。たしかに私は東京の街でとても“壓抑”な生き方をしているように思えるのです。今回こうやって三年ぶりに旅をしてみて、そのことを改めて、痛いほど、気づかされました。

旅を終えて、東京に帰ったら、その“壓抑”のありかを洗い出して、ひとつずつ解きほぐそうと思いました。