インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

わからない

わからないつながりでもうひとつ。書評家の豊崎由美氏が東京新聞朝刊の「東京ブックカフェ」に書かれている書評、というか文芸時評の「何でも書いていいってさ」で、翻訳家・岸本佐知子氏の『わからない』が紹介されていました。


わからない

豊崎氏はふだんエッセイや随筆というものをほとんど読まないそうで、それは「他人にあまり興味が持てないわたしには『だからなんなんスか』としか思えない」からだとか。

季節のうつろいや花鳥風月を愛でたり、有名人にしか体験できないような出来事を報告したり、世の中をにぎわわせている話題をこすったり。

う〜ん、確かに。私もふだんエッセイを読んでいて正直「だからなんなんスか」と思うことが多いので同感することしきりです。でもそう言っちゃったら私が書いているこのブログの文章なんて「だからなんなんスか」の典型ですよ。“向天而唾(天に唾する)”とはまさにこのこと。

その豊崎氏が「スバカシイ(素晴らしくバカバカしい)」と、ご自身いわく最上級の褒め言葉でオススメされている岸本氏のエッセイ他を収めた新刊『わからない』をさっそく買って読んでみました。いや〜、確かに。こんなエッセイを読んだのは初めてです。この一冊にはエッセイのほか、書評や日記も収録されているのですが、とにかくエッセイの「スバカシさ」にとことんやられてしまって、書評や日記がちょっと色褪せて見えたほどでした(ごめんなさい)。

こういうたぐいの文章はたくらんで書けるものではないと思います。おもむきはぜんぜん違うけれど、今年の初めごろに読んだ雨宮まみ氏のエッセイに通じる危うさと毒とユーモアを感じました。とにかく読みながら何度爆笑したことか。出版元である白水社のウェブサイトには「危険防止のため、電車の中では読むことをお控えください」と書いてありましたが、いやほんと、人前でこれを読むのはかなり危険です。

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