インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

かつて電話というものがありました

先日の朝、携帯電話を手に取ったら、知らない電話番号からの不在着信が入っていました。しかも真夜中に二回連続で着信しています。非通知ではない、こういう電話番号が表示されるタイプの不在着信はたいてい宅配業者さんからの問い合わせであることが多いです。でも今回は、発信元が「新潟県 燕市」となっていました。これは……?

私は燕市に知り合いはいませんし、これまで訪れたこともありません。こういうときは電話番号をネットで検索します。なにかの勧誘や宣伝目的であった場合、ネットには「迷惑電話検索」みたいなサイトがたくさんあって、たいていは「◯◯会社の勧誘です」みたいな書き込みが見つかります。そんなときは即着信拒否に登録するのですが、今回はなんと新潟県警の燕警察署でした。

えええ、親戚の誰かが旅行中に野垂れ死にとか!? ……などときわめて不謹慎な想像をしながら電話をかけてみたら、これは燕警察署の代表番号で「電話をかけた者を探して、こちらからかけ直します」とのことでした。けっこうドキドキしながら十分ほど待っていると、着信がありました。「すみません、かけ間違いだったようです」。

なんでも交通事故の処理の際に、関係者に連絡を取ろうとして、私の携帯電話にかけ間違ったのだそうです。電話口の警察官さんはかなり恐縮した口調で謝ってくれました。こんな言いかたはたいへん失礼ではありますが、警察の方にしてはとても丁寧で腰が低いなあと思いました。新潟の方はみなさんそうなのかしら。


https://www.irasutoya.com/2018/02/blog-post_184.html

今回の件であらためて感じたのは、私たちの暮らしが(と一般化は避けて「私の暮らしが」ですか)かつてとは比べものにならないほど電話というものと縁遠くなったのだなあということです。現代ではおそらく多くの方々が連絡手段としてまずはメールやチャットを選び、直接「音声電話」をかけることは少ない、さらにはいきなり電話するのは失礼であるとさえ考えるようになっています。

私は仕事で電話をかけることはまずありませんし、自分のスマートフォンにもいっさい出ません(宅配業者さん、ごめんなさい)。というか、きょうび携帯電話・スマートフォンを「電話・phone」として認識している方はそれほど多くないのではないかと思います。あれはもうほぼ、検索したり、アプリを使ったりするための機器ですよね(私は加えて腕時計がわり)。

2007年にスティーブ・ジョブズ氏が初めてiPhoneを発表したときの有名なプレゼンでは、この製品を「①ワイドスクリーンiPod、②携帯電話、③インターネット通信機器」と定義しており、なかでも②の携帯電話としての機能が最優先かつ重点的に紹介されていました。聴衆の反応も②がいちばん大きかったように記憶しています。つまり当時はジョブズ氏さえも、携帯電話・スマートフォンのその後の普及のありようをじゅうぶんには予測できていなかったということですよね。

私はむかしから電話というのものが、出るのもかけるのも大の苦手でした。特にこちらのプライバシーなどおかまいなく突然ベルが鳴り出すというその理不尽さにいつも憤っていて、面と向かって会話をしているのに、それよりも突然割り込んできた電話への応対が優先されるのはおかしい!……などと言っては、家族や同僚によく「ドン引き」されていました。そんな時代を経てきた者としては、ほんとうにいい時代になったなあと思っています。