インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

「お子ちゃま」だなあ

毎朝自宅の最寄駅から電車に乗って出勤しています。今日はちょっと時間に余裕があったので、ゆっくり駅に向かっていたら、踏切脇に公衆電話ボックスがあるのに気づきました。もう何年もこの駅を使っていますから、毎日のように目にしていたはずなのです。なのに、ここに電話ボックスがあるという認識自体がなかったというのは、ちょっとした驚きでした。大丈夫かな、自分。

それで、あらためて電話ボックスを観察してみました。電話ボックスの扉を開けたのは何十年ぶりかしら。懐かしい灰色の公衆電話はかなりホコリにまみれていましたが、「生きて」いるようでした。おそらく災害時には役立つとか、そういう理由で残されているんでしょうね。

……と、奥のガラスにこんな注意事項が貼ってありました。これはまた、日本ならではの過剰な注意喚起です。こういう「日本文化」は外国人留学生とディスカッションする時にとても盛り上がるアイテムなので、すぐに写真に収めました。

それにしても、これはかなり過激な注意喚起です。およそ起こりそうもないようなことが列挙されていますもん。1番目の「電話帳上蓋」というのは何のことだろう……と薄れてしまった記憶をたどっていくうちに、思い出しました。たしか公衆電話機の横に小さなテーブルみたいなスペースがあって、そこにあの分厚い電話帳が吊り下げられていたんです。

その電話帳が吊り下げられているプレート(これが電話帳上蓋)を手前からくるっと持ち上げると、180度回転してそのまま電話帳を閲覧することができるようになっていた……って、生まれたときからスマートフォンが世の中にあった世代の方には、電話ボックスだの電話帳だの、もはやなにを言っているのか皆目見当がつかないと思いますが。試みに「電話ボックス 電話帳」で写真検索をしたら、こんな写真が見つかりました。緑色の公衆電話の横に、電話帳が下がっています。これこれ。


https://www.benricho.org/Tips/nttpublictel.html

……などと喜んだり懐かしんだりしている場合ではありません。ともかく、こんな注意喚起が暮らしの隅々に溢れているのが日本なんですよね。これは外国の方々からはとても好奇の目を注がれるポイントでありまして、公共空間のアナウンスやスローガンの多さとともに、驚かれる方が多いです。来日当初はあまりにも大音量のアナウンスが多いので、なにかとんでもない緊急事態が起こっているのだと思った、なんてのは定番のジョークです。

でもそのうちみなさん「日本人化」して慣れちゃう、ないしは「こんなことまで注意喚起し続ける必要があるなんて、ずいぶん『お子ちゃま』だなあ」という感慨に落ち着くというのが大体のところです(気を遣ってあまり言ってくれませんけど)。そうですね、諸外国では逆にちょっと不安になるくらいこうしたアナウンスや注意喚起はないものね。

qianchong.hatenablog.com

とはいえ、なにごとも理由や原因があるものです。くだんの電話ボックスにあの過激な注意喚起ステッカーが貼ってあったのは、とりもなおさずそういう「事案」が実際に起って、クレームなり抗議なりがNTTに寄せられたからなのでしょう。注意喚起してくれてなかったから脚を挟んで怪我した! ……みたいな。まさに「お子ちゃま」です。

もっともこのステッカー、ネット界隈ではけっこう有名なものらしく、検索している過程で私と同じような「ツッコミ」を入れている方を見つけました。たとえばこちらとか、こちらとか。みんな「お子ちゃま」扱いに、それなりに複雑な感情を抱いてらっしゃるんですね。

電話ボックスで写真を撮ってから電車に乗ったら、ぎゅうぎゅう詰めの車内でアナウンスが入りました。「発車しますと揺れますのでご注意ください」。