インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

やたら注意喚起されちゃう日本での暮らし

家電つながりでもうひとつ、「SUSONO」のイベント関連で気づいたこと。

家電やパソコンを買うと、やたらシールやラベルが貼られていることがあります。例えば炊飯器だと「圧力IH」とか「本格鉄釜」とか「極め炊き」みたいに機能や仕様をアピールするもの。Windowsのノートパソコンも買ったときには「インテル入ってる」のシールをはじめ様々なシールがそこここに。私は家電を買ったら、こうしたシールやラベルをすぐに全部はがしてしまいます。「SUSONO」のイベント終了後の懇親会でそのことを話したら、『Casa BRUTUS』の松原亨氏も「私も『はがす派』です」とおっしゃっていました。端的に言ってあれ、かっこよくないですもんね。

機能や仕様のほかに、注意喚起のためのシールやラベルもたくさん貼られています。PL法(製造物責任法)で義務づけられているのでしょう、「メーカーがユーザーに何らかの損害を与えた場合、故意または過失がなくても損害賠償の責任を負う」ようになったおかげで、事前にそのリスクを回避しようとメーカーがやたら注意喚起のシールを貼りまくるのですね。

これはうちの洗濯機ですけど、上面はこんな感じで説明と注意喚起で埋め尽くされています。とくにこの、エラー表示が「C21」などとアルファベットと数字で出て、それをわざわざ一覧表から探すために常に家電の上面に貼ってあるというの、何とかならないのかなといつも思っています。最新式のタッチパネルなんかが装備されている洗濯機ではこういう表示はなくなっているのかもしれませんが。

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機能もやたら盛りだくさんで、私が単にずぼらなだけかも知れないけれど、ほとんどの機能を使ったことがありません。洗濯して、時に乾燥機能をつかうだけですから。炊飯器と同じ過ちをここでも犯してしまいました。

洗濯機の横にある洗面台も、やたらシールが貼り付けてあります。

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ごていねいに「このラベルははがさないでください」と書かれていますね。見た目にとてもかっこ悪いしシンプルさに欠けるのではがしてしまいたいんですけど、賃貸物件なのでそう勝手なこともできません。しかも「はがした部分は、跡が残ります」などと警告されてもいますし。

水まわりも、こんな感じ。

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こういうシールやラベル、注意してみると本当に驚くほどたくさんな貼られています。しかもいったん気づいてしまうと、もうその過剰さが気になって仕方がありません。

こういう説明や注意喚起を文字で長々と記さなくても自然に手や身体に馴染み、使い勝手がよいというのが本来のプロダクトデザインのありようだと思うんですけど、日本のこの異様なまでの注意喚起っぷりには軽い絶望を覚えるほどです。外国の方々から「過剰なほど街に溢れているのに日本人の眼にだけは映っていない」と揶揄される電柱や電線の存在にも通じるものを感じます。

注意喚起のどこがいけないのか、親切心で注意してくれているんだからと思う方もいるでしょう。でもこれ、昨日のテーマにも通じますけど、親切そうな顔をしてその実クレームをあらかじめ回避するための方策ですよね。そしてそれは、我々ユーザーがあまりにもクレームをつけすぎ、「あらかじめ言ってくれなかったじゃないか!」と責任を押し付け合い、自立性・自律性を失っているからなのではないかとも思えます。

この件に関して松原氏は対談で、なぜ海外のスイッチパネルは角が立っていてソリッドでカッコいいのか、なぜ日本のスイッチパネルはホンワカ丸い角のデザインになっているのか……について、角が立ったスイッチパネルは施工時にちょっとでも曲がるとすぐに分かり、それに対してクライアントからクレームがつきやすいからだという話を披露されていました。

うーん、そうなのか。日本人はクレームを出し過ぎなのかもしれません。そういえば駅や交通機関内での過剰なアナウンス、注意書きの多さも、あれこれとクレームをつけられるのでその対策ないしは事前回避策としてあそこまでになっているのだという話を聞いたことがあります。でも私がいつも利用している東急田園都市線の「発車しますと揺れますのでご注意ください」なるアナウンスが聞こえてくるのに至っては、ちょっと病的でさえあると思いますけど。

日本をひとしなみに語ることはできないけれど、総じて今の日本人は細かいところにクレームをつけすぎで、それに対して謝罪しすぎで、その事前回避策としての様々な注意喚起やお断り書き的なものが多すぎると感じています。

でも、松原氏はこうもおっしゃっていました。「あのゴチャゴチャ過剰な所が実は日本のセールスポイントで、それが観光客を引きつけているのかもしれない」と。確かに渋谷のスクランブル交差点などで、多くの外国人観光客がうれしそうに撮影しているのをよく見ますよね。日本の過剰なまでの注意喚起やアナウンスも、海外の方にとってみれば「へええ、そんなことまで注意するんだ!」と新鮮な驚きになるのかもしれません。私にとっては単にストレスがたまるだけですけれど。

以前読んで大いに共感した、この本をご紹介しておきたいと思います。


うるさい日本の私