インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ピーピング・トム『マザー』

ベルギーのダンスカンパニー「ピーピング・トム」の公演『マザー』を見てきました(ご注意:以下、ネタバレがあります)。

『マザー』『ファーザー』『チャイルド』という家族三部作のひとつ。美術館のような病院のロビーのような空間を舞台に、母と娘のイメージが様々な手法を重ねながら提示されます。ノイズ、光、水、内臓器官、血、暴力、痙攣、電子音、オペラの独唱のような歌曲、そしてセリフの声。

冷え冷えとした雰囲気ただようホラー映画のような雰囲気をベースに、しかしどこかユーモアをたたえた(実際、客席からは笑い声が何度も起きていました)不思議なパフォーマンスでした。基本的にはダンス作品なのですが、演劇的な側面もあります。また公演現地の一般市民にエキストラとして出演してもらうというのも大切なコンセプトなんだそうで、十名ほどの年配の方々が登場していました。

確たるストーリーがあるようでない前衛的なコンテンポラリーダンスなので、見終わって「ああ、ゆたかな演劇体験だった」と心がほくほくするようなものではありません。いや、私もかつてはこういう作品を次から次に貪るように見てものすごく刺激を受けたものですが、最近はちょっと食指が動かなくなっていました。

それでも今回、たまたまチケットが手に入って久しぶりにこういう種類のパフォーマンスを見て、長い間忘れていたある種の感性が蘇ってくるような感覚を覚えました。しかも見終わったあとからじわじわと反芻されてくるような。コロナ禍に突入するずいぶん前から伝統芸能以外のステージはかなりご無沙汰だったのですが、またいろいろと見つけて見に行きたいと思いました。


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余談ですが、ロビーでもらったパンフレットの文字が小くて、老眼鏡を持参していなかったのでスマホの写真アプリで拡大して読んでいたら、劇場のスタッフから「写真撮影はご遠慮ください」とお咎めをちょうだいしました。また開演前には「マスクを外さないでください。開演中にマスクを外されますと、お席までお願いに伺うことになります。周りのお客様に御迷惑ですので……」と繰り返しアナウンスが。

座席の幅が狭いこぢんまりとした世田谷パブリックシアターなので、こうした注意喚起は理解できます。でも正直に言うと、小学生の遠足並みにお小言が多くて観劇前からちょっとだけ気持ちが萎えました。これはおそらく、コロナ対策に加えて、ふだんから寄せられる苦情が積み重なってのこの過剰とも言える注意喚起なのでしょうね。そういうお小言がなくても気持ちよく見られるような、観客側の成熟が必要なんだろうなと思います。

こういうときはつい「出羽守」になって「海外ではもっとマナーが洗練されてる」なんてことをいいたくなりますが、ちょっと検索してみたら“Theater Etiquette”みたいなページがいくつか見つかりました。どこも似たようなものなんですね。

https://broadwaydirect.com/theater-etiquette-dos-donts-attending-broadway/

www.blaketheater.com