インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

これをなんというのかわからない

中国に留学したとき、初日に大学の寮で部屋をあてがわれて、まずやろうと思ったのが掃除でした。ほうきとちりとりと、あとぞうきんもいるかな……と思った瞬間、はたと考え込んでしまいました。中国語で「ほうき」と「ちりとり」と「ぞうきん」って、何ていうんだっけ。

留学するまでに、つごう五年くらいは中国語を学んできていました。奨学金を得るために中国語の試験も受けましたし、クラス分けの面接もなんとか突破して“高級班”に入ることができたというのに、日常生活でよく使う、そんな単語の数々がぜんぜん自分の中に入っていなかったのです。

これは「留学あるある」の典型例みたいで、それまで学んでいた教科書には出てこなかったたぐいの(しかし基本的な)語彙で困るとか、いざ街に出てみたらみなさん教科書みたいにはしゃべってなくてぜんぜん聞き取れないとか、そういうエピソードは多くの方が語ってらっしゃいます*1

それからは心を入れ替えまして、意識的に日常生活で目にする細々としたモノやコトについて、単語を収集し、覚えるようにしてきました。それでも当然ながら難敵はつぎつぎに現れるものでありまして、たとえば以前、台湾は台北合羽橋道具街的なエリア迪化街で「あれ」を買おうと思ったのですが、名前が出てきません。あれとは、皿ごと蒸した料理を蒸籠から取り出す時に使うこれです。


https://www.kvselect.com/190423000002

お店の方に「ほら、あの、蒸籠から、こう挟んで、熱いから……」と身振り手振りなども加えてようやく購入できたのもつかの間、昼ご飯を食べに入った食堂でまた「あれ」に出会いました。あれとは、食堂や屋台のテーブルに必ずと言っていいほど置いてあるこれです。


https://ynews.page.link/u3f2g

栓抜きじゃないんですよ。もちろん栓抜きとしても使えるようになってますけど、より重要な機能は上にあるでかいゼムクリップみたいな部分で。ちなみにこれ、中国大陸(中華人民共和国)出身の留学生は「なにこれ?」的な反応であるのに対して、台湾出身の留学生はほぼ全員が知っている、けれども名前は誰も知らないという品です。

支払い用の伝票を挟んでおくためのもの? ではなく(そういう使い方もできそうですが)、これは割り箸を包んでいるビニールの袋が風で飛ばされないように、ここに挟んでおくための専用器具です。最近はプラスチック製のもありますけど、この昭和の事務用品的な雰囲気ただよう金属製のこれをみると私はいつも、ああ、台湾に来たなあと感慨にふけるのです。

*1:“多少錢?(おいくら?)”だって「ドゥオー・シャオ・チィエン?」なんて言ってない、ほぼ「ドァルチェ?」にしか聞こえない……って。