ふだん私はあまりテレビは見ないのですが、海外を旅行しているときは現地のテレビ番組をあれこれ見て回るのが好きです。日本にいるときは騒がしくてしかたなく感じるテレビCMでさえ、海外のそれは、当たり前ですがかなり新鮮に感じます。先日、コロナ禍を挟んで三年ぶりに台湾で数週間過ごしましたが、その間も現地のチャンネルをあれこれ見比べていました。
今回台湾でテレビを見ていて、ひとつだけ気づいたことがありました。それはいわゆる“偶像劇(アイドルドラマ)”、それも台湾産のそれをほとんど見かけなくなっていたことです。いまや既存のテレビ局に加えてNetflixなどのネット配信ドラマもよりどりみどりの台湾ですが、韓国ドラマや中国大陸のドラマには“偶像劇”らしい雰囲気のものも散見されたいっぽうで、台湾のドラマにそれらしいものを見つけられなかったのです。
https://www.irasutoya.com/2016/10/blog-post.html
もちろん四六時中見ていたわけではないので、たまたまだったのかも知れません。ですから確かなことは言えないのですが、澎湖で泊まっていた民宿のオーナーによると、たしかに最近台湾では“偶像劇”が退潮の傾向にあり、変わって“真實故事(トゥルー・ストーリー)”的なドラマに人気が移っているのだそうです。愛だ恋だ青春だ……的な物語より、いまの世の中を反映した、じっくりと考えさせるタイプの味わい深いドラマが増えつつあると。
へええ、そうなのか……と気づかされてネットで検索してみたら、“知乎”にこんな分析が載っていました。中国大陸の方が書かれたとおぼしき、この“近些年来台湾偶像剧为什么没落了?(ここ数年台湾のアイドルドラマはどうして「没落」したのか?)”という文章では、中国大陸が巨額のコストをかけるようになるにつれて、台湾のアイドルも大陸のドラマに出るようになったこと、上述したNetflixのような新しいメディアが台頭してきたことなどがその理由として挙げられていました。発表時期は2020年になっていますから、必ずしも最近の傾向というわけでもないようですが。
またこちらのサイトを読んでみると、以前の台湾ドラマは甘いラブストリーや日本のマンガの翻案などが多かったけれども、最近は現実社会のさまざまな問題や身近な話題をテーマにして、それらをときにコメディタッチで、また時にサスペンスタッチでといったように様々な手法で描く作品が増えてきたことがうかがえます。なるほど、民宿のオーナーが言っていたのはこういう傾向のことだったのかもしれません。
▲大好きな台湾ドラマ“花甲男孩轉大人”で、放映当時話題になった盧廣仲・蔡振南両氏による長回しでの親子げんかシーン。
もちろん台湾にも、以前から“偶像劇”にカテゴライズされないタイプのドラマだっていろいろありました。だから単純に“偶像劇”から“真實故事”へという流れだと考えることはできないかもしれません。ただ全体としてはアイドルの人気や知名度にだけ頼ったドラマづくりの比重が下がってきているということは言えるのかもしれないーーそんなことを今回の旅行で感じました。ひるがえって、日本のドラマはどうなのかしら。