先日も記事を書いたのですが、私は人前で話すのが苦手です。語学関係の「商売」をしておきながら「話すのが苦手」もないだろうと自分で自分にツッコミを入れたくなりますが、本当に苦手。苦手なだけじゃなくて「下手」だとさえ思います。これでもアナウンス学校やボイストレーニングに通った経験さえあるというのに、いまだに滑舌は悪いし、冗語は多いし、中国語の発音だって“大舌頭(舌足らず)”なのです。謙遜でもなんでもなく、ホントに。あ、アナウンス訓練やボイトレで声量だけは大きくなりましたが。
アナウンサーさんや声優さんみたいな話し方に憧れますが、だからといってそれだけが上手な話し方というわけではないとも思います。話し方のテクニックより、話の内容のほうが大切。とつとつとした話し方であっても、引き込まれるようなお話をされる方はいらっしゃいます。だから「苦手」だと逃げてばかりいないで、せめて話の内容だけでも充実させたいものですが、それすらできているかどうか、心もとない……。
そんな中、先回YouTuberさんの動画を紹介してくれた台湾の友人が、また新たな動画を送ってきてくれました。先般の選挙で台湾の大統領(総統)に再選された蔡英文氏が、若い“網紅(ネット上で人気のある、いわゆる「インフルエンサー」みたいな存在)”お二人に動画配信の「心得」を教わる……という、おもしろい内容です。
【 小英做什麼 EP1 】小英原來不是想當網紅?開設頻道竟然是這個原因⋯!? ft. 魚乾、志祺七七
こうした政治家の動画には、まあ言ってみれば自分のイメージやキャラクターを形作るための「宣伝素材」という側面があります。なのに視聴してみてまず感じるのは、この動画にはそうした「政治家の宣伝」臭がまったくといっていいほどしないことです。これは私が中国語の母語話者ではない(だから話し方から受けるイメージを見極めきれていないかもしれない)ということを差し引いても、日本における同様・同目的の動画と比較してみれば、その差は一目瞭然だと思います。
もちろん、こうした動画は編集を経ていますし、台湾の大統領という立場にある蔡英文氏の公式動画ともなれば少しでもマイナスイメージになるような画面は注意深く排されていることは想像に難くありません。それでも一国のトップである蔡英文氏の話し方の、なんと闊達で親しみやすいことでしょうか。さらに驚くのは、そうした人物を前にした若いYouTuberお二人の話し方がこれまたフランクでまったく物怖じしていないことです。
それでいて、無駄な言葉や非論理的な発言、曖昧な物言いがほとんど入っていない。当意即妙の会話でありながら、これだけ会話の密度が高いというのはすごいと思うんです(しつこいようですが、編集を経ているとはいえ)。日本の政治家で、ここまでの話し方をできる方がいるでしょうか。そして政治家に対してここまでの会話を仕掛けることができるお若い方がいるでしょうか。
こうした話し方をされる人に接すると、私などいつも圧倒されて「頭いいんだなあ……」と思います。そう、冗語もなく、曖昧な物言いに堕することもなく、ロジカルに、それでいて愛嬌もある話し方ができるというのは、ひとえに頭の回転が速いんだと思います。そして自らの中にきちんとした考えが育まれており、豊かな教養の背景もあるからこそできる話し方なのではないかと。
私はさきほど「話し方のテクニックより、話の内容のほうが大切」などと逃げを打ちましたが、こうした方々は話し方のテクニックが優れている上に、話す内容も充実している……まったくもって敵わないなあと思うのです。こんな言い方は雑駁かもしれませんが、私はこうした話し方に「人間力」みたいなものを感じます。私たちはもっと、こうした「人前で話す訓練」をしなきゃいけないですね。