年末、北九州市の実家に帰省して、年末のうちに東京へ戻ってきました。せっかく帰省したんだから家族や親戚とゆっくり年越しすればいいのにと友人には言われます。でも、高齢の親にとっては逆に負担になりますし、私も年末年始のラッシュに巻き込まれるのはもう身体的にも精神的にもムリなので、ここ数年はこうした「前倒し」が続いています。
東京へ戻る前の日に、北九州駅前のショッピングモール「SAINTcity(セントシティ)」に入っている無印良品に行ったら、無印良品セレクトの本を売っているコーナーがありました。そこで『人と物6 米原万里』という文庫本をみつけたので、帰りの飛行機で読もうと買い求めました。
私は寡聞にして知らかなったのですが、無印良品ではひとりの人物にフォーカスしてその人の言葉と物をつなぐ文章をまとめたこの「人と物」シリーズを、もうずいぶん前から刊行しているそうです。ロシア語通訳者で文筆家でもあった米原万里氏をテーマにしたこの一冊も、奥付を見ると2017年の発行でした。
150ページほどの薄い文庫本ですから、北九州から羽田までの1時間あまりのフライトで十分に読めてしまいました。私はかつて米原万里氏の『不実な美女か貞淑な醜女か』を読んで通訳者を志して以来、氏の著作はあらかた読んできましたので、この一冊に収められた文章もそのほとんどが既読のものでした。それでもあらためて氏の文章を読んで、その稀有な文才と文体の妙に魅了されました。
そして何より、いまの自分における物の見方や考え方、特に言語にたいするそれは、米原万里氏のお考えから多大な影響を受けていることをあらためて感じました。影響というか、ほとんど氏の受け売りと言ってもいいのかもしれません。このブログに書いている文章だって、その根っこの大半は、氏の著作にあるんだなあと。
この薄い一冊にはしかし、生前米原万里氏が大切にされていた物の写真とそのエピソード、さらには貴重な写真の数々とその解説、収められた文章に関する簡単なブックガイドもついていて、とても読み応えがありました。2006年に氏が亡くなって17年あまり。もうそんなに経つのかという思いとともに、いまの私よりも若い年齢で亡くなられていることに複雑な思いがします。
氏と自分を比べるのも僭越きわまりないのですが、じゃあ自分はどれだけのことを成してこられたのか、これからどう生きていけばいいのかを弥が上にも考えさせられるからです。