インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

シンクロニシティ

ふだん通勤列車のなかでは語学のアプリに取り組んでいるのですが、仕事であまりに疲れた日などはそこまで学習意欲がわかないこともあり、そんなときはよくYouTube動画を見ています。先日はたまたまアプリを開いて一番最初に出てきたこのショート動画を見ました。英語の“queue(列)”は“que”や“q”と同じ発音なのになぜこんな綴りになっているのかと。確かに!


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ところがこの動画を偶然見たその日の夜、積ん読になっていたローラン・ビネ氏の小説『言語の七番目の機能』を読み始めたところ、冒頭で“queue”が出てきたので驚きました。

するともうひとりの学生が発言した。「さらに言えば、Qは英語ではキュー、フランス語ではク。これは尻尾とか行列の“queue”と同じ音。つまり、買い物の場面を連想させる。新奇な装置を売る店で列(ク)をなしている時間、すなわち自分の番が回ってくるのを待っているあいだ、アクションとアクションの場面のあいだの遊んでいる死んだ時間を意味するわけです」(37ページ)


言語の七番目の機能

こういういわゆる「シンクロニシティ」はしょっちゅう、でもないけれど、ときどき起こります。単なる偶然と言ってしまえばそれまでですけど、それほど頻繁に使われる単語でもない“queue”がこうやって立て続けに登場すると、そこになにか理由のようなものを探してしまう気持ちを抑えきれません。ほんとうに、なぜなんでしょうね。

その数日後、今度はこれも積ん読になっていたニック・チェイター氏の『心はこうして創られる』を読んでいたら、とある認知心理学の実験における興味深い発見についての紹介がありました。三人一組のチームがふたつ混じり合いながらボールをパスするという映像を被験者に見せ、一方のチームのパス回しだけに注目してその数を数えるというタスクを課すという実験です。


心はこうして創られる

この実験では、被験者はきちんと数を数えることはできた一方で、映像の途中で大きな傘を指した女性やゴリラの着ぐるみを着た人物が画面を大胆に横切っているにも関わらず、ほとんどがそれに気づかなかったという結果が出ます。つまり脳が感覚情報の処理をする際には一度に一つだけのトピックに集中できるのみで、その他の情報にはなかなか着目しない・できないという驚きの結果なのです。脚注にこの実験ビデオも紹介されています。


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この実験についての記述を読んだ次の日、朝のジムでいつものように「一席」の講演を聞きながらトレーニングをしていたら、まったく同じ実験について中国人研究者が語っていました。しかもこの動画も自分で選んだわけではなく、「一席」のチャンネルからYouTubeが勝手に選んで再生してくれたものなのです。


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うわあ、またまたシンクロニシティか……と驚いた次の瞬間、気づきました。そうか、前の日にあのゴリラの実験映像をYouTubeで見たものだから、YouTubeが関連するおすすめ映像としてこの中国人研究者の「一席」講演動画を選んで再生してくれた可能性があるかも、と。シンクロニシティのように見えてその実、私たちの興味の方向や嗜好を巨大IT企業が誰よりも(おそらく私の家族以上に)知悉しているという現実の可能性を思い知らされたわけです。

しかししかし、冒頭の“queue”はどうでしょう。私が見たYouTube動画と、私が以前に買った書籍とは何のつながりもないはず……。これはさすがにシンクロニシティなんじゃないかと思いましたが、そういえばこの書籍はAmazonで購入したのでした。まさかそこに何らかの情報のつながりが? こうなると、もはや何やら陰謀論めいてきますね。

これも以前に読んだ田坂広志氏の『死は存在しない―最先端量子科学が示す新たな仮説』にはシンクロニシティが起こる理由について「ゼロ・ポイント・フィールド」という仮説が書かれていたのですが、これはあまりに「ぶっ飛んでいる」仮説なので、正直、腑に落ちたとは言いがたいです。シンクロニシティについてもっといろいろな解説を探してみようと思っています。


死は存在しない―最先端量子科学が示す新たな仮説