インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

“下”の音が聞こえない

留学生の通訳クラスで使える映像教材を探していて、こちらの動画に行き着きました。なぜインドの人たちはカレーを食べるのか? というお話。なかなか興味深いです。


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こうした動画にはよく中国語の字幕がついていますが、私はまずはそれを見ず、自分の勉強も兼ねてディクテーション(書き取り)してみることにしています。それにネット動画の字幕はけっこう適当なものも多いので、その確認も兼ねて一字一句確かめていきます。

ところが、ひとつだけどうしても聞き取れないひとことがありました。1分31秒あたりで、“切完了以后○○一大锅”と言っているのですが、〇〇の部分が何度聞いてもよくわかりません。仕方がないので字幕を見ると“切完了以后底下一大锅”となっています。

私はてっきり動詞が入るのかなと予想していたのですが、“底下(〜の下)”だったのですね。なるほど、“就没有案板,就在那儿,在一只手在另一只手上切小方块儿。切完了以后底下一大锅。”ですから「まな板を使わず、手にしたナイフで野菜を細かく切りながら下に置いた鍋に落としていく」ということなのでしょう。日本人はあまりやらないけど、外国の方でそういう切り方をする人はいますよね。こちらに、まさにそれをやっている動画がありました。


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しかし、私にはこの“○○”の部分がどうしても“底下”に聞こえません。無理を承知であえてカタカナで書けば「ディーシャー」ですが、短い「ディェ」のように聞こえます。それで最初はどこかの方言かしらと思ったくらいです。動画に登場している檀怀宇先生は、その“儿化音”からして中国は北の地方出身の方のようなので、同じ地方出身の中国人留学生に聞いてもらいました。そしたら「確かに“底下”と言ってます」だって。ええええ〜。


https://www.irasutoya.com/2015/05/blog-post_23.html

留学生のみなさんによると、“底下(dǐxià)”の発音のうち、“xià”は往々にして軽く短い“er”みたいな音になるのだそう。なるほど、確かに、例えば“多少钱?(Duōshǎo qián)”も、北の地方の方はそんなにはっきりくっきり言わず、“Duōer qián”みたいになりますよね。「ドゥオシャオチェン」じゃなくて「ドゥァチェン」という感じ。

“x”や“she”のような、日本語で言えば「サシスセソ」系の摩擦音(もちろん両者は異なりますが)が、かなり軽い巻き舌っぽくなるんですね。つまり“底下”が「ディーシャー」じゃなくて「ディェァ」みたいになると。留学生のみなさんは、さすがネイティブスピーカーだなあと感服しました。そして、私はやはりどこまで行っても中国語の非ネイティブなんだなと改めて思い知らされました。

蛇足ですけど、この動画に出演されている檀怀宇先生は、その風貌にとても風格がおありです。私は最初、この方はインドの方かしらと思いました。かの地に何度も通って深く研究されているうちに、そういう風格をまとわれるようになったのかしら。すばらしいです。