留学生の翻訳クラスで、字幕翻訳の授業が始まりました。毎年この時期から数ヶ月かけてそれぞれの字幕作品を作るという課題で、ひとりひとりに字幕制作ソフトの「Babel」を貸与して授業を進めます。
最初に字幕翻訳のガイダンスをしました。日本の「業界」における字幕翻訳ルールを紹介し、字幕制作ソフトの使い方を学び、最初に1分間ほどの短い動画を使って「トライアル」をやってみることにしました。実際に字幕翻訳の仕事をする際も、翻訳者が翻訳会社に登録するとなるとまずは短い動画に字幕をつける「トライアル」をすることがままあるので、それを踏まえてみたのです。
字幕翻訳はおおむね「ハコ切り」→「スポッティング」→「翻訳」という順番で作業が進みますが、最初から「決定版」を目指してきっちり作業をすると、得てして失敗して,あとから膨大なやり直し作業が生まれます。
まずはざっとハコを切り、下訳をして、動画に合わせて視聴してみて、またハコを分割したりつなぎ合わせたり、スポッティングの位置を変えたり,字幕の文字数を削ったり……いろいろな微調整を積み重ねます。ようは、何度も何度もレイヤーを重ねるように最初から最後までを俯瞰しつつ仕上げていく、というのがまあ、一応の常道とされています(極端にお忙しい第一線のプロはまた違うかもしれませんが)。
それで授業でも、「最初からきっちり作り込んじゃダメですよ、何度もレイヤーを重ねるようにね」と強調するのですが、実際作業が始まってみると、あれほど何度も注意したのに最初からキチキチと作る人が多いです。んも〜、講師の言うことなど聞いちゃいないんですから。
逆にものすごい短時間で「センセ、もうできました」などと言ってくる人もいて、見せてもらうとスポッティングは雑だは、翻訳は間違ってるは、登場人物の関係を踏まえない台詞回しをしているは……。まあこういうのは、ご本人の意識がどれだけ高いかにかかっている、その人の人となりが現れるものですから、致し方ないですね。
故・高島俊男氏でしたか、「教育は歩留まりの悪いもの」とおっしゃっていましたけど、本当にそうだなあと思います。もちろんこちらは仕事ですから、めげずに丁寧に指摘して、改善を促しますが、それにしてもあまりにこちらの説明を「聞いちゃいない」方が多いので、毎年この授業を担当したあとは疲労困憊の体です。