インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

留学生による字幕翻訳上映会

毎年恒例の、留学生による字幕翻訳上映会を行いました。夏休み前の数カ月間、翻訳クラスの授業で取り組んでいた作品を、他の学年の学生や教職員とともに鑑賞して、最後に投票で「最優秀字幕賞」を決めるというイベントです。

留学生は様々な言語の母語話者ですが、今回は基本的に英語と中国語(北京語)のショートムービー(ドキュメンタリー・アニメ・バラエティ番組など素材はさまざま)に、プロ用の字幕翻訳用ソフトを用いて日本語の字幕をつけるという課題でした。

ほんらい翻訳は、主に母語方向に行うのが普通ですし、ましてや通常の翻訳以上に制約や独特のルールが多い字幕翻訳ですから、留学生のみなさんにとってはかなり難しい作業だったと思います。

それでもみなさん、とても真剣に課題に取り組み、素晴らしい字幕をつけてくれました。ひとりひとりが自分の好きな映像を素材に選んで、すべての作業を責任を持って進めたので、それなりにやりがいもあったと思います。

全作品を同時並行的に複数の教室で上映し、それぞれの作品上映前には翻訳した本人がかんたんなプレゼンを行います。観客はハンドアウトを参考に興味のある作品を見て回り、最後に全員で「よかった!」と思うもの(映像の面白さよりも、字幕の出来栄えで判断します)三本に表を入れるという「B級グルメ選手権」方式で最優秀作品を選出しました。

集計の結果、最多得票数をあげた三作品を決定し、表彰式も行いました。アクリル製の盾もこの日のために特注しました。

字幕翻訳界隈は、YouTubeなどの動画サイトでも自動で字幕がつく機能が登場するなど、劇的な変化を遂げています。でも結果的にはきわめて「安かろう悪かろう」な環境になってしまっていて、ほんらい字幕が持っていた上質な異文化・異言語コミュニケーションの役割が損なわれてしまっているようにも感じています。

qianchong.hatenablog.com

そんななかで、留学生のみなさんが質にこだわって日本語の字幕を製作し上映するというのは、とても意義のあることだと自負しています。これが将来のお仕事に結びついていけばいいんですけど、現実は……。

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それでも留学生のみなさんが、こうやってまっとうな字幕翻訳に取り組んだという経験とそのスピリットが、その後のお仕事の現場、とりわけ通訳や翻訳の現場でも活かされ、発揮されたらいいな……と、教える立場にあるものとして願っています。