インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

大きな声では伝わらないかもしれない

留学生に課題や練習方法の説明をしたり、教務(事務局)からの連絡事項を伝えたりする際、みなさん「聞いちゃいねえ……」と感じることがよくあります。若くて元気いっぱいだから、いつも教室は「わいわい」していて、なかなか注目してくれないということもありますが、「あれだけ説明したのに、全然伝わってない」と脱力することもしばしばです。

先日も字幕翻訳のクラスで、字幕翻訳ソフトの使い方や字幕のルールなどを実演しながら説明して、じゃあグループに分かれて実習してみましょうということになったのですが、あれだけ噛んで含めるようにいろいろと説明したにも関わらず、スポッティングはテキトーだわ、画面をはみ出すほど長い字幕を作っちゃうわ、句読点を使っちゃうわ、文体が統一されてないわ……等々ですったもんだ。同僚の先生とあちこち駆けずり回って、同じような説明を繰り返す羽目に陥りました。ま、毎年のことなんですけどね。

留学生の日本語リスニング能力がまだ低いのかなとも思いますが、いえいえ、みなさん最低でもすでに来日三年目で、日本語が聴き取れていないということはなさそうです。別途刷り物も配っていますし。もちろんこちらの説明手法が拙いのではという誹りは甘んじて受けますが、最近、生徒が「聞いちゃいねえ」一番の大きな理由は私が「大声で話すから」ではないか、と思い至りました。

私は声が大きいです。もともと大学で「劇研」やってて地声が大きかったところに持ってきて、通訳訓練の一環でアナウンス学校やボイストレーニングに通ってさらに大きな声に磨きがかかり、電話をかけた相手は受話器を耳から遠ざけてしまうほど。語学学校では周りの生徒さんが慎ましやかに小声で発音練習している中でひとり大きな声を張り上げ、先生から「みんなもっと声を大きく! あ、あなたはもう少し小さくていいからそのぶん丁寧に」と言われました。

留学生のクラスは多いときだと40名くらいいるので、教室の隅々までハッキリ聞こえるよう、私は声を張り上げていたのですが、どうも大声で話せば話すほど、みなさん耳を閉じてしまうみたいなんですね。端的に言って「うるさい」からかもしれませんし、特段注意を払わなくても声が聞こえるので、そのぶん集中しなくなるのかもしれません。とにかく大声で語っても、伝わらない。ということで、先日、意図的に小さな声で、しかしとても重要なこと(期末試験の範囲など)を話してみたのです。

……そうしたら。

みなさん、聞く聞く。耳をそばだて、こちらに意識を集中させているのが手に取るように分かります。おしゃべりしているクラスメートにも「しーっ!」「老師在講呢(センセが話してるぞ)」とか注意してくれちゃったりして。

なるほど、旅人のコートを脱がそうと北風が強く吹けば吹くほど、旅人は襟元をしっかり抑えてしまい逆効果になる……というイソップ寓話を思い出しました。「今さらかよ!」という感じですが、パブリックスピーキングは単に声が大きければいいというものではないと、ようやく悟ったのでした。

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