インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ChatGPT

人間とほとんど区別がつかないと話題の自然言語AI「ChatGPT」を試してみました。その機能と性能、現時点で考えうるリスクなどについては、こちらの「テレ東BIZ」の動画が参考になります。


www.youtube.com

「ChatGPT」に関する私自身のおぼろげな認識では、文章で質問を投げかけると、とても自然な返事が帰ってくるというもので、要するにSiriとかAlexaみたいなものの文章版かなという感じだったのですが、この動画を見るとどうやらそんなところだけに留まるようなものではなさそうです。

そのひとつが「要約を作ってくれる」というものです。文章の要約や映像を視聴したうえでの口頭での要約(通訳訓練のひとつ「サマライズ」)は私も職場でよく課題として出しています。ちょっといろいろと気になるので、さっそく「ChatGPT」にアカウントを作ってみました。メールアドレスとパスワード、名前と電話番号だけで簡単に登録できます。

https://chat.openai.com/chat

さっそく要約を試してみようと、昨日の自分のブログ記事を上から3分の2ほどをコピー&ペーストし、「次の文章を要約して」という文に続いてChatGPTに入力しました。

qianchong.hatenablog.com

上掲の動画では、日本語で入力すると日本語で返してきましたが、私に場合はなぜか英語で返ってきました。う〜ん、これはこれで興味深いです。ざっと読んでみましたが、なんだかとても整っているような(自分の文章ではないような)感じ。

The author teaches several classes at a specialized school or interpreter school. Among them, they include lessons such as "broadcast interpretation" and "subtitle translation" as part of interpretation and translation training. The author is concerned that their teaching materials and plans may not be relevant due to changes in the industry, as they have noticed that broadcast interpretation, which was once widely used on TV news programs, is becoming less common due to declining viewership of TV and increased use of online streaming services with automatic subtitle functions. The author believes that they need to revise their teaching materials and plans to reflect these changes and may need to consider discontinuing certain materials and plans.

それで、試しにこれも自然言語AIのひとつである「DeepL」で翻訳をかけてみると、こんな文章になりました。

筆者は、専門学校や通訳学校でいくつかの授業を担当している。その中には、通訳・翻訳教育の一環として、「放送通訳」や「字幕翻訳」などの授業も含まれている。しかし、テレビの視聴率低下や自動字幕機能付きのネット配信サービスの普及により、かつてはテレビのニュース番組で多く使われていた放送通訳が少なくなっていることに気づき、業界の変化により教材や企画が適切でなくなっているのではないかと危惧しています。このような変化に合わせて教材や計画を見直す必要があり、一部の教材や計画については廃止を検討する必要があるのではないかと筆者は考えている。

……うおお。ちょっとこれはすごいかも。「ChatGTP」にはアカウントを作る必要がないお試し版もあって、こちらでももう一度試してみると、こんどはなぜか、こんな簡潔な日本語の文章が直接生成されました。

現在職業は専門学校や通訳学校で授業を担当していて、通訳・翻訳訓練の一環として「放送通訳」や「字幕翻訳」などの授業も取り入れているが、近年の放送通訳の減少傾向を受けて、教材や教案の変更も検討する必要があると考えている。

冒頭の「現在職業は」がちょっと不自然ではあります。米国で開発されたAIですから、日本語から日本語はまだちょっと洗練されていないのかもしれません。でももし、私が担当している留学生が「ChatGTP」や「DeepL」などを駆使して課題を提出してきても、見抜くことは難しいのではないかと思います。


https://www.irasutoya.com/2016/12/blog-post_169.html

趣味で外語を学ぶのが好きで、仕事も語学関係の私としては、なんだか複雑な感慨を抱きました。でも、こういうAIが登場し、かつその性能がどんどん上がっていけば、膨大な時間と労力を要する外語学習は、ほんとうにやりたい人だけがやっていく、ある意味心安らぐ時代になっていくのかもしれません。いまのように誰もかもが外語(とりわけ英語)学習に幼少時から狂奔するようなことがなくなって。

以前にもこのブログに書きましたが、翻訳家の金原瑞人氏が雑誌『kotoba』の35号「日本人と英語」に「通訳マシンで会話する時代の英語教育」という文章を寄稿されていて、その最後にこんなことを書かれています。

通訳・翻訳マシンが、スマホくらい日常的に使われるようになれば、道具としての英語の運用能力なんて、釜でご飯を炊く腕前程度のものになってしまうかもしれない。そんな時代になると、英語はふたたび選択科目に格下げになり、必修でなくていいよという扱いになるのだろう。教員としては、それはそれでのんびりと、教えたいことを教えられてうれしいような気がする。
(中略)
外国語を学ぶ目的は、母語以外の言語を知ることによって、母語そのものを知る、母語についての理解を深める、また、異文化への興味を広げることにあるのだ、という時代を懐かしんでいるうちに、ふたたびそういう時代にもどってしまうのもそう遠い未来の話ではないような気がする。

金原氏の予想は、どうやら現実のものになりつつあるようです。