インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

好ハオ

職場の図書館で雑誌をあれこれ読んでいたところ、書棚にあるファッション雑誌に目が止まりました。表紙に「圧倒的に好ハオいモノだけ」という特集名が大書された『S Cawaii!』という雑誌です(2023年11月号)。


S Cawaii! 2023年11月号

おおお、中国語の “好(hǎo)”がついにこんな形で! と手に取りました。かつて学生さんたちが中国語のことを「チャイ語」と称しているのに接したときも相当に感慨深いものがありましたが、こんどは「好ハオい」ですか。……って、そもそもどう読むんですか、これ、と思ってページをめくってみると、こんな説明がありました。

好ハオというこの3文字で、“はお”と読む。「好き」「魅力的すぎる」「尊い」などという意味を持つ、SNSから生まれた言葉。

なるほど、いわゆる韓流ブームで韓国あるいは韓国語のタームが日本のお若い方々にも入ってきていることは承知していましたが*1、ついに中国語もこんな形で……というか、この解説によれば “好” が中国語であることすらすでに意識されておらず、たとえば「エモい」とか「映える(ばえる)」と同じような感覚で使われているのですね。

こちらのサイトによれば、すでに2022年ごろからInstagramなどで流行している言葉・表記なんだそうです。知らなかった〜(同僚の中国語講師も「初耳〜!すごい〜!」と驚いていました)。

numan.tokyo

なぜ「好ハオ」と書いて「はお」と読むかというと、「好」という漢字だけだと日本語の「好き」に読めてしまうからと書かれています。おそらく中国語の発音である「ハオ」と読みたい・読ませたい一方で、それが中国語であるという認識はもはやあまり重要じゃないということなのですね。単に「好き」なら中国語では “喜歡(xǐhuān)” ですもんね。

中国語から日本語に入ってきた言葉はあまたありますが(その逆もまたたくさんあります)、この「好ハオ」やその派生型「好ハオい」「好ハオすぎる」などはこれまでとはまったく違う中国語の受容例として歴史に残るのではないか! とひとり図書館で盛り上がりました。

中国語を学んでいますとか、中国関係の仕事ですと言うだけで身構えられちゃうような時代も知っている(いま現在もある意味そうですが)だけに、そんな政治関係の生臭いところなど軽々と飛び越えて中国語を使われちゃってるこの現象が、なんだか嬉しくて仕方がありません。

*1:「チンチャそれな」とか「まじミアネ」とかですね。