インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

日本人は社会問題に関心がないの?

オンライン英会話のCamblyでチューターさんと会話をしていたら、なかなか率直なことを言われました。以下はレッスン後にディクテーションしてみた*1その部分です。

I think you're my third person from Japan in the last couple of hours, and the very few of them are actually interested in social issues. They'll talk about all sorts of different things that and very interesting and very nice people. But very few people seem to be aware of social issues.


あなたはきょう3人目*2の日本人なんだけど、実際のところ社会問題に興味を持っている人はとても少ないですね。みなさん様々なことについて話してくれますし、とても面白く素敵な人たちですが、社会問題に意識的な人はほとんどいないみたい。

engooのニュース教材を使って、社会でマイノリティと呼ばれる人々対してどう向き合うべきかという話をしているときでした。かつて日本で社会問題となった公害(例えば水俣病のような)について私が紹介していたら、こう言われたのです。“very few people seem to be aware of social issues”と言われて、「う〜ん、日本人はコンサバティブ(保守的)なところがありますから……」と返すくらいしかできませんでした。

確かに、選挙の投票率ひとつとっても、私たちは社会問題に対してあまり興味を持っていないように見えます。国政選挙の投票率でさえ常に5割程度で、先日の衆参補欠選挙衆院長崎四区が42.19%、参院徳島・高知選挙区にいたっては32.16%でしたもの。私が住んでいる街でも国政選挙は6割程度、区長選挙や区議会議員選挙などはいつもだいたい4割程度の投票率です。

くだんのチューターさんはいつも色々な国や地域の学習者と接していて、なぜ日本人だけが社会問題について語らないのだろうと漠然と感じてらっしゃったんでしょうね。同じ日本人としてちょっと恥ずかしい思いもしますが、ただ想像してみるに、私たちは社会問題について旗幟鮮明にする、さらには異なる意見を前に議論するというのに慣れていないだけじゃないかとも思います。意見は持っていても、そういうことを大っぴらに議論するのが苦手というか。

かくいう私だって慣れているわけじゃありません。このレッスンでも大したことは言えませんでしたし、ましてや英語ですからもっと幼稚な意見に聞こえたんじゃないかと思います。でも、言葉の巧拙はともかく、さまざまな社会問題に対して自分はこう思うという意見を言う・言えることに価値を置く文化の人たちから見ると、そういうことをほとんど語らない日本人は不思議な存在に映るのかもしれません。

それはチューターさんたちの反応を見てもわかります。社会問題、ことに現代的なトピックである性差や多様性などについて話しているときは、他愛ない話題、たとえば趣味などについて話しているときよりも明らかに盛り上がるのです。もちろん趣味について話すのだって悪くないですけど、おそらくチューターさんたちも、現代社会のより先鋭的な問題について話したり教えたりするほうが、ご自身も刺激があって楽しいんじゃないかと想像します。

外語を学ぶ前に、母語による思考が蓄積されていなければいけないと改めて思いました。外語「を」話すこと以前に、外語「で」何を話す・話せるのか、その部分が大切なんですね。

ただ、先鋭的な社会問題をストレートに議論し合うという環境が何をおいても理想的かというと、そこは私も「微妙」だと思います。ちょうどけさ読んだ東京新聞で北丸雄二氏がコラムに書かれていたように、それは時に新たな分断をも生み出しかねないからで、そこを日本人はうまく避けているようにも思えるからです。

北丸氏は基本的に、さまざまな価値観のすりあわせを常に待ったなしで行わなければ世の中が回っていかないという米国の状況も踏まえ、賛否に関わらずとにかく言葉を尽くして議論が繰り広げられるというスタンスを肯定しておられると思います。でも一方で、そんなストレートな議論が巻き起こらない日本の奇妙な「優しさ」を半ば呆れて批判しつつも、ほんの少しだけ救いを見出しているようにも読めたのです。

私個人としては、ひとりの社会人として社会問題に関心を持たない、あるいは語らない・語れないのは恥ずかしいことだと感じていますが、普段は社会問題に関心を寄せていても、なにもオンライン英会話などの場にまでそういうことを持ち込まなくてもいいんじゃないかと思っている日本人が多いから、「日本人は社会問題に意識的ではない」という「定評」が生まれているのかな、とも思いました。

*1:Camblyはレッスンがすべて録画されていて、あとから見直すことができます。

*2:Camblyのチューターさんたちは概ね毎日何人もの学生のレッスンをしています。