インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

揚げ豚

「さもない(然もない)」という言葉を久しぶりに見かけたような気がしました。立ち寄った書店で偶然に有元葉子氏の『有元家のさもないおかず』を見つけ、購入したときのことです。そうそう、日常の炊事で作る料理って、こういう「さもない」ものばかりなんですよね。


有元家のさもないおかず

ふだん自炊していると言うと、人からは「何料理を作るの?」とか「得意な料理は何?」などと聞かれることがありますが、いつも答えに窮します。だって冷蔵庫に残っているありあわせの材料や、その日スーパーで見つけた食材で作った「さもない」料理ばかりですから。それに「何料理を作るの?」という質問の後ろには、男性が作る=ホビー的な料理という固定観念も透けて見えます。非日常的な「男の料理」みたいなニュアンスで。

それはさておき、この本には本当にさもない料理のレシピがたくさん載っています。海苔とレタスをちぎって合わせただけのサラダとか、ピーマンを種もヘタも取らずにまるごとかぼちゃと炊き合わせる煮物とか、シンプルだけれどおいしいものが多いのですが、私が一番気に入ってよく作っているのは、豚肩ロースのかたまり肉を丸ごと揚げちゃうという「揚げ豚」です。

揚げ物って、私は基本的にあまり作りません。以前はよく作っていたのですが、油の処理やレンジ周りの後片付けが面倒ですし、なによりもう歳なので揚げ物自体が重すぎて。でもこの揚げ豚は、肉が半分ほど浸るくらいの油でよく、かたまり肉より一回りほど大きい鍋を使えば、揚げ油もかなり少なくて済みます。

そして常温の油からゆっくり温度を上げていって、20分ほど揚げたらひっくり返してまた10分から20分ほど揚げるだけ。ほかのおかずを作りながらでもできます。そしてなにより、揚げ物とは思えないくらいあっさりしていて、ご飯によく合います。添えた生キャベツもかなりおいしい。大阪の串揚げについてくるキャベツを思い出します。しかも調味料は醤油と黒胡椒だけ。

醤油と黒胡椒だけで大丈夫なのかしらと思いますが、これは他に余計な手をかけたり味を加えたりしないほうが断然おいしいです。こういう料理を考えてしまうところが料理研究家のすごみですよね。ああ、こうやって書いていたら、また食べたくなってきてしまいました。行きつけのスーパーで、かたまり肉の特売やってないかしら。