インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

習慣のアンカーを引き上げてみる

行動経済学の入門書として有名なダン・アリエリー氏の『予想どおりに不合理』に、アンカー(錨)によるアンカリング(係留)という話が出てきます。伝統的な経済学では、製品の価格は需要と供給で決まり、かつその力はお互いに独立していると考えますが、実際にはお互いが依存しているのではないかということを示したものです。


予想どおりに不合理

供給側は、広告やブランド戦略などさまざまな手法を講じて消費者に新たな市場価格を受け入れてもらえるよう努力しています。そして需要側がそれをいったん受け入れれば(アンカーが降ろされれば)、引き続きその価格を受け入れ続け(アンカリングされ)、新たな需要を繰り返し生み続けていくのです。

この本で紹介されている例を引くと、それまでダンキンドーナツの安いコーヒーで満足していた*1のが、ある日たまたまスターバックスでそれよりも数倍高いコーヒーを飲み、たまたまその味と効果を堪能した*2ことがアンカーとなり、次回からその行動をもとに同じくスターバックスでコーヒーを飲むようになるというような行動です。

何度か通っているうちに、「そのたびに自分が好きでそうしているのだという思いが強まっていく」。そして、これは自分自身の決断なのだという思いがそれを強化します。かくして「いつの間にかスターバックスでコーヒーを買うのが習慣になっている」……こういうアンカリングは、たしかに私たちの日常にあふれているような。

ずっとずっと以前、私はスターバックスで「ソイラテのトール」をよく買っていました。最初に「ソイラテのトール」を注文したときのことは覚えていませんが、いつの間にかそれを注文することが定番になっていました。見事にアンカリングされていたわけです。

ソイラテのトールは現在473円。もし平日に毎朝買い求めたとしたら、週に2365円、月に9460円、年では113520円。実際にはそんなに毎日飲まないとしても、1年に10万円近くソイラテに投じていると考えれば、このアンカリングされた習慣が果たして妥当なものかどうかはじゅうぶん反省に値すると思います。

こうやって可視化してみることは、自分の習慣を変えるための有効な手立てのひとつです。私の知人はほぼ毎日利用していたスタバのレシートをすべて保存しておいて、あとからそれを見直すことでこの可視化を行い、自分がスタバに降ろしていたアンカーを引き上げました。かくいう私も、いまではスターバックスでコーヒーを買うことはほとんどありません。

……と、ここでふと、これまで数年通い続けている語学教室のことを考えました。語学はとにかく細々とでも「やめないこと」が大切と、この教室に通い続けてきた(現在はオンライン)のですが、最近ちょっと授業がマンネリ化しているように感じています。ここいらでいったんアンカーを引き上げて、他の学校や教室を見学してみようと思いました。

qianchong.hatenablog.com

アンカリングされた習慣なり行動なりをを変えるのってけっこうしんどいことです(いわゆる腰が重いというやつです)が、こうした見直しってとっても大切ですよね。

*1:わたしたちにとっては、コンビニの100円コーヒーみたいなものでしょうか。

*2:もちろんスターバックスのブランド作り、店作り、商品のラインナップづくりなどは、そうしたアンカーをつなぎ替えるための仕掛けがたくさん施されれています。