インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ホテル・メッツァペウラへようこそ

存じ上げない作家さんでした。Amazonで検索していて偶然見つけたマンガ『ホテル・メッツァペウラへようこそ』。メッツァ(metsä)がフィンランド語で「森」なので、これはフィンランドが舞台なのかなと興味を持ったわけですが、果たしてフィンランド北部のラップランドにあるホテルで繰り広げられる物語なのでありました。


ホテル・メッツァペウラへようこそ

作者の福田星良氏は、どうやらこの作品が雑誌での連載デビュー作のようです*1。ネットで検索しても、Wikipediaのページさえまだできていません。なのにこの物語の安定感はすでに中堅どころの風格です。最初の数話はやや荒削りな画風ですが、第一巻の途中でぐんとクオリティが上がります。編集部がアシスタントさんなどの体制を梃入れしたのかもしれません。それだけ将来を嘱望されているということなのかも。

日本にルーツ持ち、その外見から“söpö poika”*2と呼ばれてしまうほどなのに、全身に「倶利伽羅紋紋*3」が入っているという、いかにも訳ありな青年・ジュンが主人公です。主要な登場人物は男性ばかりで、ややBL的(というより主人公以外は年齢高めなので執事系?)な雰囲気もある作品ですが、基本的には心温まるヒューマンドラマという感じ。舞台背景が、厳しい冬で知られるラップランドなので、よけいに人の暖かさが身にしみるようなシチュエーションになっています。主人公以外の登場人物にもいろいろと過去のストーリーがありそうで、物語の設定としてとても秀逸なのではないかと思いました。

とまあ、野暮なカテゴライズはこれくらいにしておきましょう。第3巻まで発売されているこの作品、お話はまだまだ続くようですので今後の展開が楽しみです。

蛇足ながら個人的には、フィンランドの普通の街、とくにスーパーの描写などにとてもリアリティを感じました。ちょこちょこ出てくるフィンランドの食べ物もしかり。作者の福田星良氏はフィンランドに住まわれたことがあるか、何度も訪れてらっしゃるのではないかと拝察申し上げます。

あと、各話のタイトルにフィンランド語が付されているのも学習者としてはツボでした。そういえば作品タイトルも“Tervetuloa Hotelli Metsäpeuraan”となっています。「〜へ」だから“metsäpeura(森のトナカイ)*4”が入格の“metsäpeuraan”になっているんですね。福田氏もフィンランド語を学ばれているのかしら。これからも応援いたします。

*1:他に初期短編集とおぼしき『百年後のアポロ』が刊行されているようです。こちらも購入しました。

*2:フィンランド語で「可愛い坊や」みたいな意味です。

*3:いまはこんな言い方しませんか。刺青のことです。

*4:トナカイは“poro”ともいいますけど、フィンランドには英語で“Finnish forest reindeer”と呼ばれるトナカイの亜種がいて、これを“metsäpeura”と呼ぶようです。