インタプリタかなくぎ流

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もう別れてもいいですか

「この本、おもしろいから読んでみて」と妻からおすすめされた、垣谷美雨氏の『もう別れてもいいですか』を読みました。われわれと同年代の主人公・澄子が「早く逝ってほしい」と願い、ほんの少し身体が触れただけでも鳥肌が立つほど嫌悪している夫と「熟年離婚」を決意する物語。あっという間に読み終えましたが、読後感は正直に申し上げてすこぶる悪いです。


もう別れてもいいですか

読後感が悪いのは、この小説における中高年男性に対しての「disり」かたがあまりにも強烈だったからではありません。逆に、そんなどうしようもない中高年男性たちと決別しようとする主人公を始めとする女性たちに共鳴したからで、さらにはここに登場する男性たちのふるまいが決してフィクション世界だけの誇張されたものではないのだろうな、という想像がついたからです。

厚生労働省の「離婚に関する統計の概況」によると、同居期間別にみた「離婚の年次推移」では、同居期間が20年以上で離婚した夫妻の割合はほぼ上昇傾向にあり、直近の統計(2020年)では21.5%となっています(5ページの図6)。つまり結婚して20年以上同居した末に「熟年離婚」した人が全離婚夫妻の約1/5を占め、さらに増加中ということですよね。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon22/dl/suii.pdf

どういう理由で「熟年離婚」に至ったのかまではこの統計には盛り込まれていませんが、おそらくこの小説に描かれているような中高年男性たちの無体なふるまいがそのベースにあるんじゃないかと想像します。

私が直接見聞きした知人や友人の範囲でも、妻が風邪で寝込んでいるのに「オレの夕飯は?」と聞いてくる夫とか、来ている服をあちこちに脱ぎ捨てて脱衣所の洗濯かごや洗濯機に入れることさえ習慣づけられない夫とか、妻がパートから帰ってきて疲れてウトウトしていたら、夫が肩をたたいて洗い物山積みのシンクを指差して「洗ってないよ」とか、個人的にはちょっと信じられないようなふるまいの男性たちがいます。そしてこの小説が広く共感を読んでいるということは、それが決して特殊な例ではないということなのでしょう。

妻はこの本を、われわれより一回り年上の親戚のおばさんからおすすめされたそうです。おばさん夫妻はとても仲のよいカップルで、あちこち旅行に出かけたり仲間と一緒にバンドを組んだりしている人たちなのですが、おばさんはこの小説にどんなカタルシスを感じたのでしょうね。そして私の妻も。

それはさておき先日、東京は青山のおしゃれ〜なお店でドーナツとコーヒーを買って、そばの公園のベンチに座って食べていたんですね。そしたら、目の前をいかにもセレブリティでファッショナブルな若いご夫婦が手をつないで、あるいはベビーカーを押しながら行き交ってる。私はそれを眺めながらふと「でもこのうちの約1/5は熟年離婚しちゃうんだよな、それもたぶん夫が原因で……」などと思ってしまいました。ひどい人間です。ごめんなさいごめんなさい。