インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

しごと

中国語の日本人化

中国語母語話者の中日通訳クラスで、中国・台湾・香港の留学生と訓練をしていると、ときどきおもしろい現象に出くわします。「中国語の日本人化」もそのひとつです。中国語の日本人化というのは、私が勝手にそう呼んでいるだけですが、要するに母語(あるい…

やっぱり中庸がいちばんなんじゃないかと

いまの職場にはいろいろな国からやってきた留学生がいて、今年度はおよそ20カ国の学生さんたちと毎日相対しています。私は以前に日本人(日本語母語話者)だけのクラスを受け持っていたこともあるのですが、当然のことながらクラスの雰囲気はかなり異なりま…

どうしてあんなにしっかりと話せるんだろう

職場の学校では三年ぶりに文化祭というものが復活しまして、私が担当している留学生クラスも恒例の日本語劇を上演するため、ただいま練習の真っ最中です。台本は私が「容赦のない日本語」で書きました。留学生による日本語劇といえば、とかく「易しめ」の、…

そのうち誰も来てくれなくなっちゃう

昨日の日経新聞に『留学生 進む日本企業離れ』という記事が載っていました。来日中の外国人留学生のなかで、日系企業への就職を志望する人の割合が外資系企業志望を初めて下回ったというもの。その背景としては高度な日本語能力を求める日系企業の姿勢に加え…

未払い残業代

昨日夕飯を作りながらBS-TBSの『報道1930』を見ていたら、日本ではいまだに労働法制を守らない企業が多すぎるという話をしていました。残業代の未払いが現在でも当たり前に見られるなどという状況は、いわゆる先進国では到底ありえないことだと。ご多分に漏…

次を育てる

私はあと二年あまりで今の職場を雇い止めになります。その後も嘱託や非常勤という形で多少は勤め続けることができますし、職場からもそういう希望を伝えられてはいますが、それでも収入ががくんと落ち、先細りになっていくことは確実です。老後の数十年を(…

日本人と話すのが億劫?

職場の学校では、今年の4月に入学してきた留学生クラスの前期カリキュラムが終わり、期末試験が行われました。私が担当しているのは主に中国語母語話者の留学生で、中国語から日本語への通訳試験などを行いました。試験はさまざまな語彙のクイックレスポン…

共話と会話どろぼう

ドミニク・チェン氏の『未来をつくる言葉』を読んでいたら、「共話と対話」と題された一節にこんな興味ぶかい文章がありました。 共話とは、次の例のように、話者同士が互いのフレーズの完成を助けながら進める会話形式を指す。 A:「今日の天気さぁ」 B:「…

留学生による字幕翻訳上映会

毎年恒例の、留学生による字幕翻訳上映会を行いました。夏休み前の数カ月間、翻訳クラスの授業で取り組んでいた作品を、他の学年の学生や教職員とともに鑑賞して、最後に投票で「最優秀字幕賞」を決めるというイベントです。留学生は様々な言語の母語話者で…

新入社員が在宅勤務するのはNGか

在宅勤務が苦手な自分 コロナ禍に突入してから、在宅勤務やリモートワークという働き方が広まりました。私が勤めている職場でも一時期は授業がすべてオンライン形式になったので、自宅から授業をする先生方も多くいました。感染状況が収まってきた現在でも、…

巨神兵のコルク

今週は自分の誕生日が来るので、デパ地下でワインを買いました。ソバーキュリアスという言葉に出会ってお酒をほぼ飲まなくなった私ですが、別に禁酒しているわけではないのです。というわけで、誕生日とか結婚記念日とか何かの節目には飲むのです。ピノ・ノ…

「何が何でもブラック企業に就職したくない」について

仕事先の学校で、学生さんの就職難に関して「最近の学生はちょっと極端なくらい『ブラック企業』を怖がる」というお話を聞きました。ようは、社会に出ればそれなりに理不尽なこともあるだろうし、多少は無理をする局面もあるだろうに、最初からそれらを一切…

オフィス着に凝らない

同僚の韓国人から興味深い話を聞きました。韓国のビジネスパーソン、特に若い世代の人たちは「仕事にいい服を着ていかない」というのがトレンド、という話です。仕事に行くときは毎日同じようなシンプルな格好(ファストファッションのTシャツとジーンズとか…

オンライン脳

職場の学校は現在夏休み中です。私は職場にいて教材の準備や教学に関わる勉強などをしていますが、学生のみなさんはそのほとんどが帰省しています。コロナ禍で丸々二年以上母国へ帰国できなかった留学生のみなさんなので、今ごろはたぶん思う存分羽を伸ばし…

「日簡翻訳」とは?

某エージェントから技術文書翻訳のオファーがメールで届きました。このエージェントは登録している通訳者や翻訳者に一斉メールでオファーを出し、応募した人の中から仕事を割り振ると決めた人にしか返事を出さないーーつまりそれ以外の人は仕事の当日になる…

やりたいことをできることに変えていかない限りは、できることを仕事にできない。

タレントの小島瑠璃子氏が「中国での活動を見据え、来年から中国の大学に留学します」と発表しました。……って、私は日本の芸能界についてまったく疎い人間なので、氏がどういう方だかもほとんど存じ上げないのですが、ChromeでGoogleニュースを何気なく開い…

デジタル大臣の任命書

先日岸田首相が内閣改造を行いまして、河野太郎氏がデジタル大臣に任命されました。「デジタル大臣」って聞けば聞くほど珍妙な役職名ですけれど、それはさておき、河野氏は任命当日にTwitterで官記(任命書・辞令)を披露されていました。Appointed Digital …

メタ認知がなかなか発動しにくい業界

「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」というポッドキャストの番組があります(YouTubeなどでも視聴できます)。私はこの番組が好きでよく聞いています。世界史のさまざまなエピソード(出来事だったり人物だったり制度や社会のありようだったり…

コロナ禍が収まったらハイブリッド型授業になるかも

先日、メインの仕事と兼任で受け持っている通訳学校で、春学期末の個人面談を何名かの生徒さんと行いました。この学校ではコロナ禍に突入して移行ずっとオンラインでの授業が行われており、この面談ももちろんオンラインです。二年半ほどの経験を踏まえて、…

カッコいいこと

先日読んだ藤野英人氏の『投資家が「お金」よりも大切にしていること』で知ったのですが、ファッション通販のZOZOTOWNを運営しているスタートトゥデイ(現・ZOZO)の社是は「カッコいいこと」なんだそうです。なんだそれ? とつい脊髄反射で返したくなるほど…

投資家が「お金」よりも大切にしていること

アメリカにおける成人ひとりあたりの年間寄付額は13万円だそうです。しかも「けっして、お金持ちだけが寄付をしているわけではなく、お金にゆとりがない人でも寄付を行う文化がある」のだとか。約十年ほどの前のデータで少々古い数字ではありますが、それで…

鉛筆を数十年ぶりに削る

今日は朝から東京は上野公園にある東京国立博物館へ出かけてきました。留学生の通訳クラスで実習を行うためです。本館の「総合文化展」(常設展)で、日本美術の歴史を追いながら日本語での解説を英語や中国語に通訳するというものです。日本語でのガイド役…

エンジンを暖めておかなきゃ

留学生の中国語通訳クラスでオンライン授業をしていたら、台湾の留学生からこんな質問を受けました。 センセは留学していたときに、自分の中国語が突然出てきにくくなったと感じたことはありましたか? なるほど、それはつまりご自身も現在日本に留学して日…

親切すぎてかえって分からない

今週職場では留学生が「東京国立博物館」に行って見学するというイベントが控えておりまして、この週末は下見に行って参りました。うちの学校は同博物館の「キャンパスメンバーズ」制度に参加しているので、総合文化展(常設展)は無料で見学することができ…

もう気に病まない

私はオンライン授業が苦手です。コロナ禍に突入してからというもの、もう二年半近く担当してきましたが、オンライン授業では毎回精神を削られるような思いです。もちろん二年半も経験を重ねてきたのですから、それなりに授業のやり方もあれこれと工夫し、ノ…

「向き不向きがある」の危うさについて

先日読んだアンダース・エリクソン氏とロバート・プール氏の共著『超一流になるのは才能か努力か?』で、もうひとつ考えさせられたのは、「生まれながらの天才」はいるのかという問題です。 人間の資質に関する議論のなかでも、生まれつきの才能が能力を決定…

ベテラン勢がなかなかやめない理由

アンダース・エリクソン氏とロバート・プール氏の共著『超一流になるのは才能か努力か?』という本を読みました。留学生の通訳クラスで行っている「講演通訳」の授業で、学生のひとりがおすすめしてくれた一冊です。いかにも自己啓発本といったタイトルで、…

中国語で語ると深い

留学生の通訳クラスでは現在、訓練の一環として学生が一人ずつ交代で講演し、それをみんなで訳すという「企画」を行っています。私が担当しているのは中国語→日本語の通訳科目なので、学生が中国語で話し、ほかの学生がそれを日本語にします。テーマは「私の…

こんな国に来てくれる

授業の間の休み時間に、同僚がこんなことを言っていました。「留学生のみなさんは、こんな日本の、東京の、どこに魅力を感じているんでしょうね」。うちの学校の留学生は、その多くが日本での就職を目指しているのですが、昨今は日本の学生だってなかなか希…

戦争と日本アニメ

留学生のクラスで「東アジア近現代史」の授業を担当していて、ここ数週は大東亜共栄圏について話したり、みなさんが調べたことを発表してもらったりしています。毎年授業の一環として、1943年から制作が開始され1945年に公開された長編アニメーション映画『…