中国語母語話者の中日通訳クラスで、中国・台湾・香港の留学生と訓練をしていると、ときどきおもしろい現象に出くわします。「中国語の日本人化」もそのひとつです。
中国語の日本人化というのは、私が勝手にそう呼んでいるだけですが、要するに母語(あるいは準母語)である中国語が、まるで日本語母語話者の操りがちなそれに近くなってしまうことです*1。特に来日して三年、四年と比較的長期間日本社会で暮らしている留学生によく見られます。
中国語は語順が大切な言語で、英語と同じように動詞が文の最初の方に来ることが多いです。日本語は逆に動詞が文の後ろの方になって出てくることが多い。だから私のような日本語母語話者が中国語を学んでいるとき、ついつい日本語の語順が干渉してきて、先に目的語を言い、それから動詞を足そうとしがちです。
それが日本語→中国語の通訳訓練をしていると、中国人母語話者の留学生もまるで日本語母語話者みたいに目的語を先に言い、それから主語や動詞を足そうとして、結果的に「まるで日本人が喋っているみたい」な中国語になることがあるのです。
https://www.irasutoya.com/2015/12/blog-post_39.html
昨日も入国制限の緩和でインバウンドが復活しつつあるという日本語ニュースを教材に使って練習していたところ、イタリア人の親子が秋葉原で「爆買い」というくだりで、こんな一節がありました。
日本のアニメやマンガを愛する、息子のアンドレアさん。
ところがこれを通訳するときに“日本的動畫和漫畫”から話し始めて文の組み立てが危うくなり、でもそこはそれ母語話者なので色々と補って訳し終えはしたものの、全体としてはとてもくどくどしい中国語になってしまいました。
もちろんみなさん、ふだん中国語で話しているときは、当たり前ですけど自然に主語と動詞を先に出して、例えば“兒子安德烈熱愛日本的動漫”などと簡潔な中国語が出てくるはずです。
ところが日本語をベースにして中国語を出力しようとすると、日本語の語順にひきずられて、いきおい日本語的・日本人的語順になっちゃう。そして日本に長く暮らして日本語も上手になっているので、その語順でもそれほど違和感を覚えなくなっている。そんな感じの訳出がたくさん出てきました。
同時通訳では、入ってきた情報の順にどんどん訳を出していく、いわゆる「順送り訳」という練習もあるので、一概に悪いとも言えませんが、純然たる中国語母語話者の留学生のみなさんがまるで日本人がむりくり紡ぎ出したような中国語を話すので、それを私が指摘しつつ、クラス中で大笑いになりました。
*1:語彙レベルでも例えば“電話番號”とか“銀行口座”など日本語の語彙に引きずられた中国語になっちゃってることがあります。通常は“電話號碼”や“銀行帳戶”なのですが。