インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

折り目正しい母語を話したい

入学試験のシーズンを迎え、私が奉職している専門学校でもすでに何度かの試験が行われました(一次募集、二次募集……と何度か試験があるのです)。筆記試験の他に面接試験があって、私もよく動員されます。面接試験では、日中通訳のクラスを志望する受験生に、日本語での質問の他に中国語でもいくつか問いかけることにしています。これは中国語母語話者である受験生の中国語のレベル、つまり「母語のレベル」を推し量りたいからです。

母語にも外語同様に巧拙の「レベル」があるんですね。自分の母語なら、誰だって何でも簡単に話せるだろうと思われますでしょうか。たしかに外語よりは自分の気持ちにぴったり沿った内容を話せそうですけど、そこで使われている語彙や文の組み立て、話し方のスタイルなどにはその方の「母語のレベル」が如実にあらわれます。複雑で抽象的な内容を立て板に水で話せる方もいれば、母語であってもたどたどしく要領を得ない方がいる。

日本語で卑近な例を挙げれば、おいしいものを食べても、美しい風景に接しても、映画や音楽に感動しても、あるいは学校に遅刻しそうになっても、雨が降ってきそうになっても……すべて「ヤバい」で済ませる方がいるとしたら、相手にどういう印象を与えるでしょうか。そういった母語の豊かさを面接試験で確かめようとしているのです。

ちょっと語弊があるかも知れませんが、中国語は日本語よりも「階級差」が比較的はっきりしている言語です。そしてまた、これもあんまり使いたくない言葉ですが、その方の“文化水平(教育や教養のレベル)”が現れやすい(まあどんな言語でも多かれ少なかれそうだと思いますけど)。だから面接の時に中国語で少しまとまった内容を話してもらうと、その方の母語のレベル、そして教養のレベルがある程度推し量れてしまうというわけです。

う〜ん、中国語の母語話者でもない私がこんなことを書いていいのだろうかというくらいの「おこがましさ」です。でもお仕事で中国語を聴いたり話したりされている方なら、おおむね同意してくださるのではないかと思います。日本語母語話者であっても、中国語母語話者の教養のレベルがある程度分かっちゃう。ということは、その逆もまたしかりですよね。中国語にしろ日本語にしろ、ふだんから折り目正しい(?)発言に触れて、それに学ばなければと思うのです。

さいわい現代は、ネット上に動画やアプリなどでそうした教養の香り高い中国語に簡単に触れることができます(日本語は探すのがなかなか難しいのですが)。もちろん教科書に載っている中国語を地道に学ぶだけでも大丈夫。中国語を学ぶ生徒さんからは、市井の中国語母語話者は教科書のように話していない、もっと実用的な中国語を学んで身につけたい、という「不満」を寄せられることが時々あります。日本語を学んでいる留学生からも「バイト先の日本人や日本人の友達は、教科書のような日本語を話していない」と言われることもあります。

でも私は、折り目正しい中国語を学ぶに如くはないと思います。崩すのはあとからいくらでもできるんですから。そしてそれは、母語でも同じ。少なくとも人前で話すときのそれは折り目正しくあるべきだと思います。自分としては、なかなか内実が伴わないのが歯がゆいところですが。

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