インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

語学の「見取り図」

中国語を学び始めて何年ぐらい経った頃でしょうか、あるとき「中国語とはこんな言語だ」という大まかな姿が見えてきたような感覚になったことがあります。最初は山の麓の樹海にいて周りの視界がまったくきかなかったところから、中腹まで登ってきて周囲の状況がある程度見渡せるようになり、頂上の姿もかすかに拝めるようになった感じ。あるいは中国語という巨大なテーマパークを空から俯瞰した感じです。

ごくごく簡単に描いてみると、こんな感じです。


①発音がきわめて大切。
②語順、特に「主語→動詞」を先に出す感覚になじむ。
③動詞にまつわる補語とアスペクト(態)を理解する。
④副詞がいい味出している。

中国語は発音にかなり重きを置く言語で、私がいま学んでいるフィンランド語がほぼローマ字読みでもなんとかなるのとはまったく違います。また語順で話す言語であること、動詞と副詞がとても重要であること、特に動詞が補語やアスペクトと結びついて多種多様かつヴィヴィッドな表現を可能にしていることなど……が、ある程度中国語を学んで見えてきた風景です。

もちろん他にもたくさん学ぶべき項目はあります。また、もとより語学に「これだけ学べばOK」というラインなどなく、学べば学ぶほどキリがなくなる(中国語でも“越學越沒境”といいます)ものです。でもこうやって語学全体を俯瞰して、この言語の「キモ」はここ! という「見取り図」的なものを手に入れると、それまで手探りで進んでいて、ともすれば学習を放棄しかねなかった危険性が薄れていくような気がします。

この中国語の「見取り図」的なものは、いまもお世話になっている『Why? にこたえる はじめての中国語の文法書』第19課にある「中国語ってどんなことば?」にわかりやすく書かれています。


Why?にこたえるはじめての中国語の文法書

フィンランド語の見取り図

フィンランド語のほうは、細々と学習を続けて一年半あまり。先日ようやく最初の教科書の最後の章までたどり着きました。先生によると、これで基礎的な文法はひとまず出揃ったことになるそうです。

「悪魔の言葉」とも称されるほど語形変化が複雑なフィンランド語。それでも「基礎的な文法がひとまず出揃っ」てみると、何やらこの言語の見取り図のようなものが見えてきました。

1.語順で話す言語ではなく、語形の変化が激しい。

英語や中国語とは異なり、フィンランド語は語順に重きを置きません。その点では日本語に似ています。また名詞・代名詞・形容詞などが激しく格変化するので、決まったフレーズをとにかく暗記するという「戦略」が取りにくい言語だと思われます。一方で副詞は格変化しません。

2.24個の格変化がある。

格変化は単数12個、複数12個の合計24個あります。書き言葉になるともっとあるそうですが、いまのところこれだけ。格変化をさせるためには「単語の語幹の求め方」と「kptの変化(子音階梯交替)パターン」を覚える必要があります。その上で、それぞれの格にするときのポイントと、複数の格を作るときの「母音交替のルール」も覚える必要があります。

3.動詞は人称や時制に合わせて変化する。

動詞は一、二、三人称のそれぞれ単数と複数、つまり合計6つに変化し、時制によっても変化します。さらに肯定と否定があり、特殊な形として「第三不定詞」「第四不定詞(動名詞)」「命令形」があります。時制は「現在形・過去形・現在完了形・過去完了形」の四つ。ここでは動詞のタイプ別に活用させるときのポイントと、過去形を作るときの「母音交替のルール(複数を作るときと若干の違いがある)」を覚える必要があります。

4.不規則な変化がある。

代名詞や疑問詞には上記のパターンや規則によらない不規則な変化をするもの、言い換えれば暗記するしかないものがあります。また数詞も特殊なパターンで変化するものがあり、これも覚えてしまうしかありません。

以上はこれまでに学んだものだけなので、今後また新しい項目が増えると思います。でもこうして整理してみるととりあえず今やるべきことが見えてきました。つまり……


①語幹の求め方(ie子)を覚える。
kptの変化パターンを覚える(子音階梯交替)。
③基本となる24個の格変化のさせかたを覚える(含・母音交替)。
④動詞の活用を覚える(含・母音交替)。

……というあたりに集約されそうです(けっこう複雑ですが)。プラスとにかく「⑤単語を覚える(語彙を増やす)」でしょうか。先生からも「とにかく単語を覚えてください。単語(の原形・辞書形)を知らなければ、変化や活用のさせようもありません」と発破をかけられました。

こうした「見取り図」的なものは、初学者の段階で示されてもあまりよく理解できないと思います。最初は教師を信じて素直に一歩一歩山を登って、多少は見晴らしのきく中腹まで進むしかないんですね。