インタプリタかなくぎ流

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遠い北の国でも報じられて

“Kannustushuutojakin kuultiin, mutta ne oli etukäteen nauhoitettuja(歓声も聞こえたが事前に録音されたものだった)”。フィンランドの国営放送Yleのニュースサイトで、そんな記述を見つけました。先日、5月9日に新国立競技場で行われた、東京オリンピックパラリンピックのための陸上競技テスト大会に関する報道です。
yle.fi
現在オンラインで通っているフィンランド語の教室では、先生が毎回「この三つをしっかりやってくださいね」と繰り返しおっしゃいます。「大事なことですから二度言いました」どころではく、毎回、それも繰り返しおっしゃるのですから、これは「超大事」なことに違いありません。その三つとは、これです。

1.単語:単語を覚える。
2.文法:言語の仕組みを理解し、どの語形になるかを知る。
3.語形変化:必要な語形を自分で作れるようにする。

1.は、どの言語でも同じですよね。語彙量を増やしていくのは永遠の課題です。2.については、フィンランド語は語順で話す言語ではないので、文型(肯定・否定・疑問文や命令形・条件法などなど)や、動詞がどの格を要求するかなどの知識が中心になると思います。そして3.は、複雑極まりない動詞の活用(人称・単複・時制など)と格変化(単複合わせて30通り)を素早くできるようになること、変化したあとの形から素早く原形(辞書に載っている形)に戻せることなどでしょう。

毎日仕事に追われてなかなか学習がはかどりませんが、単語は通勤電車の中で覚えています。あと教科書の音声を聞いて、できるだけシャドーイング。文法と語形変化は作文と読解。特に読解は、出てくる単語一つ一つについて、愚直に「原形はこれで、これこれこういうふうに変化している」と確かめて行くことをやります。やります……って、私はあまりできていなくて、毎回の授業で先生がやってみせるのをあっけにとられて見ているばかりなのですが。

あっけにとられて見ているばかりではいけないので、上掲の一文を「読解」してみました。

Kannustushuutojakin kuultiin, mutta ne oli etukäteen nauhoitettuja.
Kannustushuutojakin:kannustus(励まし)+ huuto(叫び声)→ huuto i a → huutoja(複数分格)+ 強調の kin。
kuultiin:kuulla(聞く)→ kuullaan → kuultiin(受動態過去形)
mutta:しかし
ne:それら nämä nuo ne
oli:olla動詞過去形
etukäteen:あらかじめ、前もって
nauhoitettuja:nauhoittaa(録音する)→ nauhoitetaan → nauhoitettiin → nauhoitettu(受動態過去分詞)、oli nauhoitettu で受動態過去完了形。
直訳「励ましの叫び声だって聞こえたが、それらは以前に録音されたものだった」

無観客試合で観客の声を録音で流す」というのはテニスの全米オープンなどでも行われたそうですが、なんだか星新一氏や筒井康隆氏のショートショートにでも出てきそうな、ディストピア小説的しかけですね。アスリートはそれでも鼓舞されて嬉しいのでしょうか。東京オリパラに関しては、無理に無理を重ねているために、こんなたぐいの椿事が出来(しゅったい)しまくっています。それがこうして、遠い北の国でも報じられて……。恥ずかしいことこの上ありません。

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https://yle.fi/urheilu/3-11924942