インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ずっとディクテーションしていたい

フィンランド語の教室は、現在コロナ禍の影響ですべてオンライン授業となっており、前日までにメールで作文を送ると、オンライン授業の最初に先生がホワイトボードを共有して添削してくださいます。自分の作文が添削されるのも勉強になりますが、他の人の作文も面白くて参考になります。

先日は「YLE Uutiset selkosuomeksi」でリスニングの練習をしています、という作文が提出されていました。このニュースサイトはフィンランド国営放送(YLE)のウェブサイトにあって、“selkosuomeksi(やさしいフィンランド語で)”ニュースを配信しているのです。通常よりもゆっくりしたスピードでニュースが読まれており、必要に応じてもっとゆっくりのスピードにすることもできます。おお、学習者にとっては願ってもない教材ではないですか。

yle.fi

私もクラスメートを見習って、昨日の日曜日、ニュースをひとつ聴いてディクテーションしてみました。……実に懐かしい。というのは、かつて中国語もこうやってニュースのディクテーションを毎週日曜日の課題にしていたからです。当時はNHKラジオで毎日午後一時から十分間だけ中国語のニュースが流れていて、それをカセットテープに録音して“聽寫(ディクテーション)”していたのです。

テープを再生して聴いて、止めて、書いて、少し巻き戻して、また聴いて、書いて……。今でもよく覚えていますが、最初に挑戦したときは、わずか十分間のニュースをすべてディクテーションするのに八時間もかかりました。でもニュースの内容が理解できるのがうれしくて、それから毎週必ずディクテーションをするようになり、聴き取りの時間もどんどん短くなって行きました。

テープを再生して止めて巻き戻して……というのは面倒なので、当時勤めていた会社にあったソニーの「テープ起こし」専用カセットデッキを拝借して(公私混同でした。ごめんなさい)効率化を図っていました。このカセットデッキは「足踏みスイッチ」がついていて、踏んでいる間は再生になり、足を離すとほんの数秒間(秒数も設定できる)自動で巻き戻って、少し前から再生できるのです。両手がフリーになるので、ディクテーションがはかどりました。このカセットデッキ、ネットで検索したら「ヤフオク!」で売られていました(すでに落札終了)。

f:id:QianChong:20201206150135j:plain
https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/d338073656

どうしても聴き取れないところはテープの速度を落として聴く(そういう機能もついていました)のですが、デジタルじゃないので速度を落とすと低く「ボワボワっ」した声になって聴き取りにくくなります。そんなときは前後で聴き取れている単語から、未知の単語を類推しました。

これは語順が比較的厳格な中国語だからできたことですが、「ここに動詞があるから、この前にある聴き取れない単語はきっと副詞に違いない」などと考えながら聴いていたわけです。当時はまったく気づいていませんでしたが、これは期せずして中国語の文法や語順の感覚を身体に叩き込む点でとても効果があったように思います。

現在では、こうしたことはパソコンで極めて簡単にできるようになりました。音声を入手(ダウンロード)するのも簡単ですし、速度を変えても音のピッチが変わらないソフトはたくさんあります。「テープ起こし」(テープじゃないけど)の作業もパソコンでできるようになりました。私はMacBookにマクロを入れて、キーボードからいっさい手を離さずにディクテーションする環境を構築しています。

qianchong.hatenablog.com

さらに最近では、GoogleDocumentの音声入力で、自動でディクテーションできるようになってしまい(しかも精度がけっこう高い)、本当に隔世の感があります。もっともそれでは勉強にならないので、大量に教材を作るときだけ利用しています。今のこの世の中にあって、語学で愚直にディクテーションなどする人などいるのでしょうか。

qianchong.hatenablog.com

しかしですね、私は趣味がディクテーションなのです。中国語のときも毎週一回学習仲間と「聽寫の会」というのを開いて、みんなで寄ってたかってディクテーションしていましたし、語学が仕事になってからも教材作りでずっとディクテーションをしてきました。だったら最近始めたフィンランド語だってやらないという手はありません。というわけでやってみました。音声はウェブサイトから無料でダウンロードできました(太っ腹!)。

Lauantai 5.12.2020
Tässä YLE uutiset selkosuomeksi. Toimittaja on Marko Tammi.
Vanhusten koronarajoituksissa voi olla ongerlmia. Hoitokodeissa ja hoivakodeissa on rajoitettu vanhusten oikeuksia koronan takia. Esimerkiksi, vanhus ei ole saanut mennä ulos tai vanhus ei ole saanut tavata omaisia. Vanhustyön asiantuntija geriatrian emeritaprofessori Marja Vaarama sanoo, että osa vanhusten koronarajoituksista voi olla lainvastaisia.
https://areena.yle.fi/audio/1-50680380

ラジオニュースにはスクリプトもついているので、答え合わせをすることができます。さらに聴いたあと質問に答えるページもあって、フィンランド語学習者にとってはいたれりつくせりです。
yle.fi

やってみて感じましたが、中国語と違って発音はそれほど難しくないフィンランド語、綴りを聴き取ること自体はすぐにできました。そのかわり語形変化が超絶に激しいフィンランド語です。聴き取ったあとに、単語一つ一つの元の形を考え、意味を確かめ、文章を読解するところに相当時間がかかりました。でもこんな感じで楽しく勉強できました。

toimittaja:ジャーナリスト・記者・リポーター
vanhus:高齢者・年寄り・老人 usで終わる単語の複数属格 +ten → vanhusten(複数属格)
rajoitus:制限・制約・束縛・限度・拘束・条件 rajoitus → rajoitukse i ssa → rajoituksissa(複数内格)
hoitokoti:老人ホーム hoitokoti → hoitokoti i ssa → hoitokodeissa(複数内格)
hoivakoti:ホスピス
rajoittaa:制限する・抑制する・制止する rajoittaa → rajoitan → rajoitetaan → rajoitettiin → on rajoitettu(条件法現在完了形肯定)
oikeus:権利・正義・裁判所 oikeus → oikeukse i a → oikeuksia(複数分格)
takia:〜のため
ei ole saanut(現在完了形否定)
omainen:親族・親戚・遺族 omainen → omaise → omaise i a → omaisia(複数分格)
asiantuntija:専門家
geriatria:老人学・ジェロントロジー
emeritaprofessori:名誉教授
osa:一部の
rajoitus → rajoitukse i sta → koronarajoituksista(複数出格)〜について(かな?)
lainvastainen:違法・非合法・犯罪 lainvastainen → lainvastaise → lainvastaise i a → lainvastaisia


【暫定訳】コロナによるお年寄りの行動制限が問題になりそうです。老人ホームやホスピスではこれまでコロナのためにお年寄りの権利を制限してきました。例えばお年寄りは外に行くことができませんし、家族に会うこともできません。高齢者に関する専門家で、老人学のマルヤ・ヴァーラマ名誉教授は、コロナ下のお年寄りに対する一部の制限については違法になる可能性があると言っています。

「やさしいフィンランド語で」という割には、けっこう硬派なニュースでした。あああ、でも楽しい。仕事なんかしてないで、ずっとこういう趣味にかまけていたいです。

でも、中国語の学校に通っていた時もサラリーマンで、今よりずっとブラックな会社で勤務時間も長かったのに、アレだけ時間のかかるディクテーションを、パソコンも使わずにやっていたのです。あの頃よりずっと楽な環境にあり、すべてタダで学ばせてもらえるいま、やらないという手があるでしょうか、いやない。これからもぜひ続けていこうと思います。