インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

学生の母語を理解して教える

同僚の英日通訳講師から「教える相手の言語を理解している教師が少ないんだよね」と言われました。最初はピンと来なかったのですが、詳しく聞いてみると「日本語ネイティブに英語を教える英語ネイティブの教師のうち、日本語を話せる(仕事ができるレベルで)人はかなり少ない」というお話でした。

なるほど、語学を非母語話者に教える場合、その方の母語を知っているからこそ工夫できる教え方というものはあります。外語は母語によって多かれ少なかれ干渉を受けるものなので、理想的なことを言えば、例えば日本語母語話者に中国語を教える方法と、英語母語話者に中国語を教える方法とでは、違っていていいはず。

もちろんそれは理想なので、実際にはいろいろな母語の学生が混在したクラスで教えることになります。私がいま勤めている学校の日本語クラスもそうですし、私がかつて留学していた中国の大学の中国語クラスもそうでした。ただ、私個人の経験から行くと、日本で教えておられる中国語ネイティブの先生方は日本語も達者な方がとても多いように思います。この辺は英語とはかなり状況が違っているような。

実は中国ではこうした研究(対外漢語教学)が盛んで、非中国語母語話者に中国語を教えることを専門に研究するための独立した大学があるほどです。そこではさまざまな分野の専門家が「よってたかって」、異なる母語話者ごとに中国語をどう教えるべきかが日夜研究されています。このあたり、中国の国家的戦略の底深さを感じるところです。世界中に中国語を、ひいては中国そのものを理解する人を増やすことがどれだけ国益につながるかということを理解して、人もお金もつぎ込んでいるわけですね。

日本ももちろん、国費外国人留学生制度などを通してそういうことをやっています。他の国にも同様の制度がありますよね。ただ日本の場合は中国ほど積極的かつ深慮遠謀に基づいたお金の使い方が行われていないような気がします。実際、例えば専門学校から大学編入する際の国費延長についても、今年は支給人数枠がガクッと減りました。コロナ禍で国の予算も逼迫しているためではないかと思われ、致し方ない部分もあるのですが。

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新規入国外国人枠もまだまだ厳しいですし、このままでは日本を選んでくれる留学生がますます減ってしまうと各方面から懸念が表明されています。日本政府もぜひ中国を見習って、「深慮遠謀」をめぐらせてほしいものです。また日本語を教える諸先生方もぜひ、学生さんの母語を(どれかひとつでも)学んでいただきたいですし、そういうところに国もお金をかけてほしいと思います。

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