インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

新入社員が在宅勤務するのはNGか

在宅勤務が苦手な自分

コロナ禍に突入してから、在宅勤務やリモートワークという働き方が広まりました。私が勤めている職場でも一時期は授業がすべてオンライン形式になったので、自宅から授業をする先生方も多くいました。感染状況が収まってきた現在でも、授業のコマがない日は基本的に在宅勤務するという方はいます。

ところで私は、コロナ禍においても在宅勤務をしたことがほとんどありません。職場の上司からなるべく在宅勤務をするようにと推奨されていた時期にも、たいがいはリアルな職場に出勤してきて仕事をしていました。リモートワークに対応できない古い人間なのかもしれません。でも私はいろいろと自分でも試してみたあげくに、できるだけ通勤するというスタイルを維持してきました。

在宅勤務を選ばない理由はいくつかあります。まず自宅のWi-Fi環境+パソコン環境が少々貧弱で、大人数の学生が参加するオンライン授業を十全に行えないという点があります。特に私が担当しているのは映像や音声を多用する授業なので、とりわけ環境の貧弱さが露呈します(かといって職場は環境強化のための補填などしてくれませんし)。

もうひとつは、自宅が「激狭」で、とても落ち着いて仕事をしていられないからです。せめて自分の部屋でもあれば、そこにこもって仕事もできそうですが、家賃の高い東京では(そして私の収入では)まず無理です。家族が自宅にいるときなどはお互いに気を遣いますし。

そして最大の理由は、自分自身がどうしても「仕事モード」に切り替わらないことです。かつてフリーランスで翻訳の仕事をしていたときにも痛感しましたが、自宅にいてプライベートと仕事をきちんと切り替えるのって、ある種の技術や適性が要るように思います。服を着替えるなどして「はい、ここからは仕事!」というモードに移れる方はいいですが、私はかなり苦手だということに、フリーランス時代に気づきました。

やっぱり家を出て、駅まで歩いて、電車に乗って、職場に……というプロセスを踏まないと、どうしても仕事モードになれないのです。それに通勤時間があれば、その間に語学の勉強や読書など、自己研鑽のためのルーティンをこなすこともできます。そして早朝から都心に出てジムに通うこともできる。早朝だから街も電車も人が少なくて、感染リスクもかなり抑えられる……そんなこんなで、在宅勤務を極力選ばずにここまで来ました。

もちろん職種によっては在宅勤務・リモートワークと親和性のあるものもあるでしょう。でも少なくとも私の場合は、自分自身の適性からしても、また実習をメインとする専門学校における教育という職種からしても、在宅勤務・リモートワークはやはり無理があったというのが現時点での総括です。


https://www.irasutoya.com/2020/05/blog-post_881.html

新人の先生が在宅勤務をするのは?

ところで先日、同じ業界の知人からこんな質問をされました。「新人の先生が在宅勤務をするの、どう思う?」聞けば、今年採用されたばかりの新人の先生が、ご自分の授業がないときには在宅勤務をされているのだそう。ルール的には何の問題もないし、その新人の先生もとても真面目な方なので在宅勤務でもきちんと働いている、それはいいのだとしながらも、知人はこう言うのです。「職場の暗黙知みたいなものを学べないのではないか」と。

うわっ、つまり暗黙の了解ってこと? 忖度、以心伝心、一を聞いて十を知るが大好きな日本的職業文化、出ましたよ〜、と一瞬思ったのですが、すぐに思い直しました。いやそれ、案外重要かもしれないと。

知人が言う暗黙知とは、言語化が難しいのですが、おそらく職場の空気感というか、そこで働く人達の間で共有されている価値観のようなものなのだと思います。もちろん同調圧力としての「出る杭は打たれる」的な空気感や価値観は私も大っきらいですけど、リアルなコミュニケーションの中で感知され、体得されていく「良き仕事の作法ないしは態度」みたいなものは確かにあるように思います。

そしてそれは、在宅勤務やリモートワークにおけるオンラインミーティングやチャットなどでは感知しにくい、体得しにくいものなのではないか。現場に生身の身体を置き、同僚や先輩などからリアルな言葉や態度を受け取り、自らも反応を返していくことで育まれていく「良きもの」があるのではないか。そんな気がして、知人の懸念にも一理あるなと思ったのです。

学校の教師という私自身の仕事に引きつけて考えれば、もし自分が今年この仕事を始めたばかりの新人だったとしたら、なるべく職場に顔を出して、授業のコマがない時間はたぶん先輩の授業を見学させてもらおうとするかなあ。そして、先生の話し方や、学生さんとのやり取りの呼吸や、教室内での立ち居振る舞いなどを「盗もう」とするかなあ。

でも不思議なことにご自分の授業を見学されることを極端に嫌がる先生方は多いんですよね。私は(別にベテランでもなんでもないけど)見学したいという方がいれば大歓迎です。でもこれまた見学させてくれとおっしゃる新人の先生はほとんどいません。

余談ですけど、「新入社員 在宅勤務」で検索したら、こんな記事が見つかりました。

toyokeizai.net

仕事と違い、人間関係を良好に保つための「敬語」「礼儀」「気遣い」などは、スポーツと同じだ。頭で覚えるものではない。先輩たちの所作を参考にまねすることからはじめなければならない。

う〜ん、この記事を読んだ素直な感想は、ちょっと感覚が古いかな……でした。でも、いま自分が書いた文章と見比べてみてもあまり変わらないような気もします。私も早晩「老害」認定されちゃうのかもしれません。